「イームズ・チェア」で有名なイームズ・デザインを創設したチャールズとレイのイームズ夫妻。もともと建築を志していたチャールズと、画家だったレイがなぜ家具のデザインをすることになったのか、そして家具にとどまらず建築はもちろん、おもちゃや映画まで手掛けた彼らは何を目指していたのか。
イームズ夫妻の伝記を通して紐解くアメリカの戦後史。モダニズム、大量生産、情報化、女性の社会的地位などのトピックがふんだんに盛り込まれ、デザインの面だけでない彼らの功績をたどる。
チャールズ
映画の主人公はタイトルのとおり、チャールズとレイのふたり。でも、私たちがイームズと言われてまずイメージするのはチャールズの方ではないでしょうか。私は家具にもプロダクトデザインにも詳しくないですが、チャールズ・イームズの名前くらいは知っています。
この映画ではイームズの歴史をたどりますが、最初に興したのはチャールズ(と友人)で、イームズが時代の寵児となったときに先頭に立っていたのもチャールズでした。
証言者たちもチャールズの発想力の素晴らしさ、カリスマ性、人間的魅力を語り、(不満もあるものの)イームズのプロダクトがチャールズ・イームズの名前で出されていることに異論を挟むことはありません。
でも、イームズのブランドを作り上げたのは実はレイだというのがこの映画の眼目であり、そのことがこの映画を単なるイームズ物語ではなく、アメリカ戦後史を描いたものにしたのです。
レイ
チャールズとレイのなれそめなどは省くとして、重要なのはイームズの礎となる椅子の生産の最初からレイが深く関わっていたということ。イームズ・チェアが爆発的人気を博したのは第二次大戦直後、若い世代が新たなライフスタイルを模索していた時代でした。
人気を得た理由として、その機能性や斬新なデザイン、価格など様々な要素があるわけですが、大きな理由のひとつがモダンなデザインだと思います。そして、デザインの核となる配色などの美的な部分はほとんどレイが担当していたといいます。
チャールズもレイを尊敬し、尊重していましたが、その頃はまだ男性だけが脚光を浴びる時代でレイは影の存在、夫を支える才能ある妻としては語られても、彼女自身の仕事としては取り上げられなかったのです。
それでも実質的にイームズを作り上げたのはレイなのだとこの映画は言っています。
レイの場合はチャールズという存在価値を認めてくれるパートナーが居て、ブランドのアイコン(の一部)として表に出られたからまだいいようなもので、この時代には全く表に出ることなく男性に搾取されていた女性が数多く居たことは想像に難くありません。
映画の前半でも、イームズ社のクレジットの問題でチャールズがスタッフを搾取していたという場面があります。「納得して搾取されていた」という表現で収まっていますが、これもチャールズの人間的な魅力ゆえで、今だったらそうは行かないだろうなと思います。
何が言いたいかと言うと、レイが再評価されてやってきたことの価値が認められることで、搾取されてきた女性たちに光が当たるということ。実は彼女たちが戦後のアメリカを作ってきたのだということです。
この映画を見ながら思い出したのは、ジェイン・ジェイコブズのことでした。1960年代にニューヨークの都市計画に異論を唱えたジャーナリストで、『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』という映画にその姿が描かれています。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
レイやジェインのような女性たちが、影であるいは草の根でいまのアメリカを作ってきたのです。
イームズ
この映画で証言するスタッフたちも女性が多く、70年代にチャールズが亡くなってレイがトップになったあとの写真を見ると、中心にいるのは明らかに女性たちになります。
これをみると、イームズは女性の視点を生かしてプロダクトをデザインしてきたからこそ現代にも通じる先進できなデザインを生み出すことができたのだとわかります。
チャールズの方も、早くからIBMと協同でコンピュータの大衆化を推し進めていました。このエピソード自体知らなかったので驚きですが、コンピュータが大衆化するのにイームズのデザインの力が使われていたというのは納得できるものがあります。
今となってはプロダクトにとってデザインが機能と同じくらい重要だというのは当たり前のことですが、それをコンピュータの分野で定着させたのもイームズなのかもしれないと思いました。
その辺は良くわからないので、映画の中でも取り上げられていた(アメリカでは失敗したという)展覧会の書籍が出ているので、機会を見つけてそれを読んでみたいと思います。
コンピュータ・パースペクティブ: 計算機創造の軌跡 (ちくま学芸文庫)
この映画でイームズを通して見えたのは、(ちょっと飛躍しますが)視点の多様性の大事さ。女性の視点はもちろんですが、デザインというのは物を別の視点から見せてくれるものであり、イームズは少し未来の視点から私たちに物を見せてくれていたのではないかと思いました。
『ふたりのイームズ 建築家チャールズと画家レイ』
2011年/アメリカ/84分
監督:ジェイソン・コーン、ビル・ジャージー
音楽:ミカエル・ベーコン
ナレーション:ジェームズ・フランコ
https://socine.info/2020/05/13/eames/https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/05/eames_main_s_large.jpg?fit=640%2C359&ssl=1https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/05/eames_main_s_large.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieVODドキュメンタリー,モダンデザイン(C)2013 Eames Office, LLC.
「イームズ・チェア」で有名なイームズ・デザインを創設したチャールズとレイのイームズ夫妻。もともと建築を志していたチャールズと、画家だったレイがなぜ家具のデザインをすることになったのか、そして家具にとどまらず建築はもちろん、おもちゃや映画まで手掛けた彼らは何を目指していたのか。
イームズ夫妻の伝記を通して紐解くアメリカの戦後史。モダニズム、大量生産、情報化、女性の社会的地位などのトピックがふんだんに盛り込まれ、デザインの面だけでない彼らの功績をたどる。
チャールズ
映画の主人公はタイトルのとおり、チャールズとレイのふたり。でも、私たちがイームズと言われてまずイメージするのはチャールズの方ではないでしょうか。私は家具にもプロダクトデザインにも詳しくないですが、チャールズ・イームズの名前くらいは知っています。
この映画ではイームズの歴史をたどりますが、最初に興したのはチャールズ(と友人)で、イームズが時代の寵児となったときに先頭に立っていたのもチャールズでした。
証言者たちもチャールズの発想力の素晴らしさ、カリスマ性、人間的魅力を語り、(不満もあるものの)イームズのプロダクトがチャールズ・イームズの名前で出されていることに異論を挟むことはありません。
でも、イームズのブランドを作り上げたのは実はレイだというのがこの映画の眼目であり、そのことがこの映画を単なるイームズ物語ではなく、アメリカ戦後史を描いたものにしたのです。
(C)2011 Eames Office, LLC.
レイ
チャールズとレイのなれそめなどは省くとして、重要なのはイームズの礎となる椅子の生産の最初からレイが深く関わっていたということ。イームズ・チェアが爆発的人気を博したのは第二次大戦直後、若い世代が新たなライフスタイルを模索していた時代でした。
人気を得た理由として、その機能性や斬新なデザイン、価格など様々な要素があるわけですが、大きな理由のひとつがモダンなデザインだと思います。そして、デザインの核となる配色などの美的な部分はほとんどレイが担当していたといいます。
チャールズもレイを尊敬し、尊重していましたが、その頃はまだ男性だけが脚光を浴びる時代でレイは影の存在、夫を支える才能ある妻としては語られても、彼女自身の仕事としては取り上げられなかったのです。
それでも実質的にイームズを作り上げたのはレイなのだとこの映画は言っています。
(C)Productions/Bread and Butter Films.(C)First Run Features.(C)2013 Eames Office, LLC (eamesoffice.com).
レイの場合はチャールズという存在価値を認めてくれるパートナーが居て、ブランドのアイコン(の一部)として表に出られたからまだいいようなもので、この時代には全く表に出ることなく男性に搾取されていた女性が数多く居たことは想像に難くありません。
映画の前半でも、イームズ社のクレジットの問題でチャールズがスタッフを搾取していたという場面があります。「納得して搾取されていた」という表現で収まっていますが、これもチャールズの人間的な魅力ゆえで、今だったらそうは行かないだろうなと思います。
何が言いたいかと言うと、レイが再評価されてやってきたことの価値が認められることで、搾取されてきた女性たちに光が当たるということ。実は彼女たちが戦後のアメリカを作ってきたのだということです。
この映画を見ながら思い出したのは、ジェイン・ジェイコブズのことでした。1960年代にニューヨークの都市計画に異論を唱えたジャーナリストで、『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』という映画にその姿が描かれています。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
https://eigablog.com/vod/movie/jame-jacobs/
レイやジェインのような女性たちが、影であるいは草の根でいまのアメリカを作ってきたのです。
イームズ
この映画で証言するスタッフたちも女性が多く、70年代にチャールズが亡くなってレイがトップになったあとの写真を見ると、中心にいるのは明らかに女性たちになります。
これをみると、イームズは女性の視点を生かしてプロダクトをデザインしてきたからこそ現代にも通じる先進できなデザインを生み出すことができたのだとわかります。
チャールズの方も、早くからIBMと協同でコンピュータの大衆化を推し進めていました。このエピソード自体知らなかったので驚きですが、コンピュータが大衆化するのにイームズのデザインの力が使われていたというのは納得できるものがあります。
今となってはプロダクトにとってデザインが機能と同じくらい重要だというのは当たり前のことですが、それをコンピュータの分野で定着させたのもイームズなのかもしれないと思いました。
その辺は良くわからないので、映画の中でも取り上げられていた(アメリカでは失敗したという)展覧会の書籍が出ているので、機会を見つけてそれを読んでみたいと思います。
コンピュータ・パースペクティブ: 計算機創造の軌跡 (ちくま学芸文庫)
この映画でイームズを通して見えたのは、(ちょっと飛躍しますが)視点の多様性の大事さ。女性の視点はもちろんですが、デザインというのは物を別の視点から見せてくれるものであり、イームズは少し未来の視点から私たちに物を見せてくれていたのではないかと思いました。
https://youtu.be/cNyHko7Cag4
『ふたりのイームズ 建築家チャールズと画家レイ』2011年/アメリカ/84分監督:ジェイソン・コーン、ビル・ジャージー音楽:ミカエル・ベーコンナレーション:ジェームズ・フランコ
https://eigablog.com/vod/movie/eames/
Kenji
Ishimuraishimura@cinema-today.netAdministratorライター/映画観察者。
2000年から「ヒビコレエイガ」主宰、ライターとしてgreenz.jpなどに執筆中。まとめサイト→https://note.mu/ishimurakenji
映画、アート、書籍などのレビュー記事、インタビュー記事、レポート記事が得意。ソーシネ
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