(C)2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

南北戦争前のアメリカで自由黒人として暮らしていた男性が、騙されて奴隷として売られ南部で12年に渡る奴隷生活を送ることになる。実在の自由黒人ソロモン・ノーサップが書いた自叙伝“12 years a slave(12年、奴隷として)”をもとにスティーヴ・マックイーンが監督した歴史ドラマ。

売られる自由黒人

ニューヨーク州でバイオリニストとして暮らす自由黒人(奴隷ではない黒人)のソロモン・ノーサップはあるとき二人組の男からワシントンでの公演の仕事の依頼を受ける。公演が終わり斡旋した二人と気分良く酒を飲んでいたソロモンだったが、目を覚ますと手足を鎖で繋がれていた。

そのまま奴隷として南部に送られ、売られたソロモンはプラットという名前で農園主のフォードのもとで働き始める。フォードのもとでは比較的恵まれた待遇だったが、他の農園主に売り渡され徐々に辛い境遇へと追いやられていく。

(C)2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

ただただ耐えた黒人の苦難を体感する

この134分という長い映画のほぼすべてがソロモンの奴隷生活を描いていて、それはただただ辛い。そして白人たちはほんの一部を除いてただただ胸糞悪い。そんな辛く悲しい映像を約2時間見せられるという苦しい映画だ。

しかし、見終わると「面白かった」と思う。この苦しい2時間がこの映画がメッセージを伝えるために必要だったのだとわかるからだ。

端的に言ってしまうとそれはアメリカの黒人たちが経験している苦難の長さを象徴的に表している。もちろん、2時間ぽっちで彼らの辛さを感じられるわけはないのだが、とにかく長く苦しい経験であるということは伝わる。

そして、それはこの映画の長さからだけではない。この映画の中でソロモンが受ける仕打ちの苦しさ、それが伝わってくることでその感覚は強まる。

特にそれを感じたのは、ソロモンがクビをつられそうになるシーンだ。ソロモンはある時、白人の監督に反抗し殴りかかって恨みを買う。その監督が仲間を引き連れてソロモンを縛り首にしようとするのだ。そこはその監督の上司に既のところで助けられるのだが、農場主のフォードを呼んでくるまで、ソロモンはぎりぎり足がつく状態で放置される。

(C)2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

これは所有者である農場主だけが彼の処遇を決められるからだと思われるが、周りの奴隷たちも見て見ぬ振りをせざるを得ず、ソロモンはプラプラしながら足を交互につきただただ耐える。カメラはそれを長回しで捉える。どれくらいの長さだったろうか。2-3分か、体感では5分くらいにも感じられるその長いシーンはただただ耐えるしかない黒人奴隷たちの境遇を象徴的に示していた。

そしてその長いシーンは現在の黒人たちの境遇へと思いを巡らせるにも十分な時間になる。奴隷からは解放され、名目的には平等が実現したが、彼らはまだ差別や貧困を耐え続けているではないか、そんな事を考えてしまう時間だった。

音楽というわずかな希望

もうひとつ感じたのは、彼ら黒人たちにとって音楽がどれほど重要かということだ。

奴隷たちの生活を見ていると、彼らはなぜ行き続けられるのか、いったい何が生きる糧なのかと疑問に思う。中には「自殺する勇気がない」という奴隷がいたり、ソロモンは「神の意志に反することはできない」と言ったりもするけれど、死んだほうが楽に違いないと思うことも多い。

それでも彼らはなぜ生きられるのか。その僅かなヒントとなるのが音楽だ。そもそもソロモンがバイオリニストだというのも象徴的だが、映画の終盤で死んだ仲間のために奴隷たちによって歌われる“Roll, Jordan, Roll”という曲。ソロモンはこの曲を歌いながら涙を流すのだが、その表情からは悲しみや悔しさなどさまざまな感情がほとばしるように見える。

この曲は18世紀にアメリカの黒人奴隷たちの間で生まれた曲とされていて、まさに奴隷たちが苦難を耐え忍ぶために歌った歌だった。歌うだけでどんな苦難も乗り越えられるとは思えないが、音楽には力があり、音楽が彼らを団結させ、音楽が結びつけた絆が僅かな生きる希望になったことは想像できる。

だからアメリカの黒人の歴史を考える上で音楽は絶対に欠かせないものなのだ。

この映画は本当に小さな希望の灯をともし続け、奇跡的に自由を掴むことができた歴史的な事実を描いている。それによってこの映画は、描かれなかったただ耐え忍ぶだけの人生を送った大多数の黒人奴隷たちの無念を浮かび上がらせている。

現在に目を向けたとき、この180年前の出来事がどんな意味を持ってくるのか、あまりに長い苦難の歴史をたどってきたアメリカの黒人たちが受け取るべきものとは何なのか、じっくり考えなければいけない。

『それでも夜は明ける』
監督:スティーヴ・マックイーン
脚本:ジョン・リドリー
撮影:ショーン・ボビット
音楽:ハンス・ジマー
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ジアマッティ、ブラッド・ピット

https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/12/12yearsaslave_main_large.jpg?fit=640%2C427&ssl=1https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/12/12yearsaslave_main_large.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieBlackLivesMatter
(C)2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved. 南北戦争前のアメリカで自由黒人として暮らしていた男性が、騙されて奴隷として売られ南部で12年に渡る奴隷生活を送ることになる。実在の自由黒人ソロモン・ノーサップが書いた自叙伝“12 years a slave(12年、奴隷として)”をもとにスティーヴ・マックイーンが監督した歴史ドラマ。 売られる自由黒人 ニューヨーク州でバイオリニストとして暮らす自由黒人(奴隷ではない黒人)のソロモン・ノーサップはあるとき二人組の男からワシントンでの公演の仕事の依頼を受ける。公演が終わり斡旋した二人と気分良く酒を飲んでいたソロモンだったが、目を覚ますと手足を鎖で繋がれていた。 そのまま奴隷として南部に送られ、売られたソロモンはプラットという名前で農園主のフォードのもとで働き始める。フォードのもとでは比較的恵まれた待遇だったが、他の農園主に売り渡され徐々に辛い境遇へと追いやられていく。 (C)2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved. ただただ耐えた黒人の苦難を体感する この134分という長い映画のほぼすべてがソロモンの奴隷生活を描いていて、それはただただ辛い。そして白人たちはほんの一部を除いてただただ胸糞悪い。そんな辛く悲しい映像を約2時間見せられるという苦しい映画だ。 しかし、見終わると「面白かった」と思う。この苦しい2時間がこの映画がメッセージを伝えるために必要だったのだとわかるからだ。 端的に言ってしまうとそれはアメリカの黒人たちが経験している苦難の長さを象徴的に表している。もちろん、2時間ぽっちで彼らの辛さを感じられるわけはないのだが、とにかく長く苦しい経験であるということは伝わる。 そして、それはこの映画の長さからだけではない。この映画の中でソロモンが受ける仕打ちの苦しさ、それが伝わってくることでその感覚は強まる。 特にそれを感じたのは、ソロモンがクビをつられそうになるシーンだ。ソロモンはある時、白人の監督に反抗し殴りかかって恨みを買う。その監督が仲間を引き連れてソロモンを縛り首にしようとするのだ。そこはその監督の上司に既のところで助けられるのだが、農場主のフォードを呼んでくるまで、ソロモンはぎりぎり足がつく状態で放置される。 (C)2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved. これは所有者である農場主だけが彼の処遇を決められるからだと思われるが、周りの奴隷たちも見て見ぬ振りをせざるを得ず、ソロモンはプラプラしながら足を交互につきただただ耐える。カメラはそれを長回しで捉える。どれくらいの長さだったろうか。2-3分か、体感では5分くらいにも感じられるその長いシーンはただただ耐えるしかない黒人奴隷たちの境遇を象徴的に示していた。 そしてその長いシーンは現在の黒人たちの境遇へと思いを巡らせるにも十分な時間になる。奴隷からは解放され、名目的には平等が実現したが、彼らはまだ差別や貧困を耐え続けているではないか、そんな事を考えてしまう時間だった。 音楽というわずかな希望 もうひとつ感じたのは、彼ら黒人たちにとって音楽がどれほど重要かということだ。 奴隷たちの生活を見ていると、彼らはなぜ行き続けられるのか、いったい何が生きる糧なのかと疑問に思う。中には「自殺する勇気がない」という奴隷がいたり、ソロモンは「神の意志に反することはできない」と言ったりもするけれど、死んだほうが楽に違いないと思うことも多い。 それでも彼らはなぜ生きられるのか。その僅かなヒントとなるのが音楽だ。そもそもソロモンがバイオリニストだというのも象徴的だが、映画の終盤で死んだ仲間のために奴隷たちによって歌われる“Roll,...
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