(C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC.

公民権運動は、世界的に有名な運動だが、その当事者はアメリカ人に限られる。苦難の歴史を味わってきたアメリカの黒人たちが真の平等を得るために起こした運動だった。

しかし、その現代的な意味はアメリカだけに限らない。公民権運動が生み出した“人権運動”の動きは、アメリカ国内でウーマンリブやゲイプライドといった運動に影響を与え、そして世界へと波及していった。

極論すると、公民権運動は自分の人権を守りたいと願うすべての人にとって意味のある運動だったのだ。

映画『ブラックパワー・ミックステープ~アメリカの光と影~』は、1967年から1975年の間にスウェーデンのテレビ局が公民権運動について取材したテープに、現代(2010年ころ)のアメリカの黒人たちの証言を載せたドキュメンタリー映画だ。

公民権運動がアメリカ人だけのものであったリアルタイムに、外からの目で運動を見つめた珍しい視点の映画であり、同じく当事者ではない私たちにはかなり多くの学びがある作品になった。

公民権運動が盛り上がりそして終わっていった60年代後半から70年代前半にアメリカで一体何が起きており、それは現代へとどう続いていくのか。この映画は、ベトナム戦争やドラッグとの関係も含めて時系列を追って俯瞰していく。

(C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC.

ストークリー・カーマイケル

この映画の最初の主人公はストークリー・カーマイケル。あまり知られているとは言えないと思うが、一時ブラックパンサー党の主席も努めた公民権運動の重要人物の一人だ。

このカーマイケルがスウェーデンで講演した際の映像がこの映画の出発点である。カーマイケルは「ブラックパワー」を提唱した人物として知られ、言葉を武器に闘争することを選んだ。無抵抗・不服従のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアとも、武力革命をうたったマルコムXとも違う考え方だと思える。

このカーマイケルの考え方は現代から見ると非常にしっくり来る。暴力は暴力による反撃を招き内戦状態になってしまうが、言葉による攻撃に対して暴力で報復することは一方的な迫害に見える。だから、言葉で戦うことができればそれが一番いいのだ。しかし、当時の状況ではそれは簡単ではなくやはり暴力も必要だという論調が強かったのだと想像できる。

だからカーマイケルはブラックパンサー党と意見が合わず党を去った。そして、迫害から逃げるように1969年にギニアに移住してしまった。

(C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC.

アンジェラ・デイヴィス

次に主人公的立ち位置に来るのがアンジェラ・デイヴィスだ。アンジェラ・デイヴィスはおそらくカーマイケルよりは有名で、現在も存命の社会学者であり活動家だ。彼女を有名にしたのは、1970年に殺人の共犯に問われた裁判だ。

この裁判については映画でも詳しく語られるが、殺人に使われた銃が彼女のものだったというだけで、公民権活動家であった彼女がスケープゴートにされたという事件だ。彼女はこのときすでにUCLAの助教授だったが、当時州知事だったレーガンに解雇されたというエピソードも語られる。

ここで思ったのは、公民権運動が単なる黒人対白人という構図ではなく、今もアメリカを分断する持つものと持たざるものとの対立構造を反映したものへと変化してきたということだ。アンジェラ・デイヴィスは共産主義者でもあり、ほんの僅かな富裕層があらゆるものを手中に収める資本主義に反対している。

公民権運動の指導者たちはことごとく暗殺されたが、証言者たちは「国に殺された」と話す。直接的に政府機関が手を下した場合もあるだろうし、国の権威を傘にきた狂信者によるものもあっただろうが、彼らをのさばらせておくのは国(=持つ者たち)に都合が悪いという論理が彼らに銃弾を打ち込んだのだ。

1970年を挟んだ10年間を俯瞰すると、そのような動きが見えてくる。

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ベトナム戦争とドラッグ

この映画の最後のトピックはドラッグだ。盛り上がりを見せた公民権運動だが、1970年代に入ると黒人の間で急速にドラッグが蔓延し運動は求心力を失っていく。貧困や差別からの安易な逃げ道としてドラッグが選ばれ、辛く交わしい運動に身を捧げる人はどんどん減っていくのだ。

このドラッグにも深く関わってくるのがベトナム戦争だ。この映画でも言及されているが、アメリカにドラッグが蔓延した理由の一つがベトナム戦争に従軍した兵士たちが日常的にドラッグを使用し、中毒になって帰国したことだと言われる。そして、中毒になったのは最下層の兵士たちであり、有色人種の割合が高かった。

さらに、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺されたのは、彼がベトナム戦争に反対の立場を取るようになったことが原因だとも言及されていて、ベトナム戦争がアメリカが悪い方に変わっていってしまったターニングポイントだと示唆されてもいる。

(C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC.

現代へ

映画はアーカイブ映像に、現代の著名な黒人たちへのインタビューが重ねられる。アンジェラ・デイヴィス本人やハリー・ベラフォンテといった湯治をしる人々以外に、エリカ・バドゥ、タリブ・クウェリ、クエストラヴのような現在活躍するアーティストも登場する。

彼らの、特に公民権運動以後の世代の話を聞くと、運動家たちのことは尊敬するが、彼らのやり方は現代には合わないと考えているように思える。現代から見るとやはりストークリー・カーマイケルやアンジェラ・デイヴィスのように思想で戦うやり方が合理的であるのだ。

この映画が作られたのは2011年で、そこから10年でまた状況は変わった。今の状況は公民権運動からの流れの中でどう捉えればいいのか、アンジェラ・デイヴィスの今の活動や思想をもう少し調べてみたいと思った。

『ブラックパワー・ミックステープ~アメリカの光と影~』
The Black Power Mixtape 1967-1975
2011年/スウェーデン/92分
監督:ヨーラン・ヒューゴ・オルソン
脚本:ヨーラン・ヒューゴ・オルソン
音楽:クエストラヴ、オンマス・キース
出演:アビオドゥン・オイェウォレ、タリブ・クウェリ、クエストラブ、アンジェラ・デイビス、エリカ・バドゥー、、ボビー・シール、ジョン・フォルテ

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https://socine.info/wp-content/uploads/2021/02/blackpower1.jpghttps://socine.info/wp-content/uploads/2021/02/blackpower1-300x300.jpgishimuraMovieBlackLivesMatter,公民権運動
(C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC. 公民権運動は、世界的に有名な運動だが、その当事者はアメリカ人に限られる。苦難の歴史を味わってきたアメリカの黒人たちが真の平等を得るために起こした運動だった。 しかし、その現代的な意味はアメリカだけに限らない。公民権運動が生み出した“人権運動”の動きは、アメリカ国内でウーマンリブやゲイプライドといった運動に影響を与え、そして世界へと波及していった。 極論すると、公民権運動は自分の人権を守りたいと願うすべての人にとって意味のある運動だったのだ。 映画『ブラックパワー・ミックステープ~アメリカの光と影~』は、1967年から1975年の間にスウェーデンのテレビ局が公民権運動について取材したテープに、現代(2010年ころ)のアメリカの黒人たちの証言を載せたドキュメンタリー映画だ。 公民権運動がアメリカ人だけのものであったリアルタイムに、外からの目で運動を見つめた珍しい視点の映画であり、同じく当事者ではない私たちにはかなり多くの学びがある作品になった。 公民権運動が盛り上がりそして終わっていった60年代後半から70年代前半にアメリカで一体何が起きており、それは現代へとどう続いていくのか。この映画は、ベトナム戦争やドラッグとの関係も含めて時系列を追って俯瞰していく。 (C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC. ストークリー・カーマイケル この映画の最初の主人公はストークリー・カーマイケル。あまり知られているとは言えないと思うが、一時ブラックパンサー党の主席も努めた公民権運動の重要人物の一人だ。 このカーマイケルがスウェーデンで講演した際の映像がこの映画の出発点である。カーマイケルは「ブラックパワー」を提唱した人物として知られ、言葉を武器に闘争することを選んだ。無抵抗・不服従のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアとも、武力革命をうたったマルコムXとも違う考え方だと思える。 このカーマイケルの考え方は現代から見ると非常にしっくり来る。暴力は暴力による反撃を招き内戦状態になってしまうが、言葉による攻撃に対して暴力で報復することは一方的な迫害に見える。だから、言葉で戦うことができればそれが一番いいのだ。しかし、当時の状況ではそれは簡単ではなくやはり暴力も必要だという論調が強かったのだと想像できる。 だからカーマイケルはブラックパンサー党と意見が合わず党を去った。そして、迫害から逃げるように1969年にギニアに移住してしまった。 (C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC. アンジェラ・デイヴィス 次に主人公的立ち位置に来るのがアンジェラ・デイヴィスだ。アンジェラ・デイヴィスはおそらくカーマイケルよりは有名で、現在も存命の社会学者であり活動家だ。彼女を有名にしたのは、1970年に殺人の共犯に問われた裁判だ。 この裁判については映画でも詳しく語られるが、殺人に使われた銃が彼女のものだったというだけで、公民権活動家であった彼女がスケープゴートにされたという事件だ。彼女はこのときすでにUCLAの助教授だったが、当時州知事だったレーガンに解雇されたというエピソードも語られる。 ここで思ったのは、公民権運動が単なる黒人対白人という構図ではなく、今もアメリカを分断する持つものと持たざるものとの対立構造を反映したものへと変化してきたということだ。アンジェラ・デイヴィスは共産主義者でもあり、ほんの僅かな富裕層があらゆるものを手中に収める資本主義に反対している。 公民権運動の指導者たちはことごとく暗殺されたが、証言者たちは「国に殺された」と話す。直接的に政府機関が手を下した場合もあるだろうし、国の権威を傘にきた狂信者によるものもあっただろうが、彼らをのさばらせておくのは国(=持つ者たち)に都合が悪いという論理が彼らに銃弾を打ち込んだのだ。 1970年を挟んだ10年間を俯瞰すると、そのような動きが見えてくる。 (C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC. ベトナム戦争とドラッグ この映画の最後のトピックはドラッグだ。盛り上がりを見せた公民権運動だが、1970年代に入ると黒人の間で急速にドラッグが蔓延し運動は求心力を失っていく。貧困や差別からの安易な逃げ道としてドラッグが選ばれ、辛く交わしい運動に身を捧げる人はどんどん減っていくのだ。 このドラッグにも深く関わってくるのがベトナム戦争だ。この映画でも言及されているが、アメリカにドラッグが蔓延した理由の一つがベトナム戦争に従軍した兵士たちが日常的にドラッグを使用し、中毒になって帰国したことだと言われる。そして、中毒になったのは最下層の兵士たちであり、有色人種の割合が高かった。 さらに、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺されたのは、彼がベトナム戦争に反対の立場を取るようになったことが原因だとも言及されていて、ベトナム戦争がアメリカが悪い方に変わっていってしまったターニングポイントだと示唆されてもいる。 (C)2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC. 現代へ 映画はアーカイブ映像に、現代の著名な黒人たちへのインタビューが重ねられる。アンジェラ・デイヴィス本人やハリー・ベラフォンテといった湯治をしる人々以外に、エリカ・バドゥ、タリブ・クウェリ、クエストラヴのような現在活躍するアーティストも登場する。 彼らの、特に公民権運動以後の世代の話を聞くと、運動家たちのことは尊敬するが、彼らのやり方は現代には合わないと考えているように思える。現代から見るとやはりストークリー・カーマイケルやアンジェラ・デイヴィスのように思想で戦うやり方が合理的であるのだ。 この映画が作られたのは2011年で、そこから10年でまた状況は変わった。今の状況は公民権運動からの流れの中でどう捉えればいいのか、アンジェラ・デイヴィスの今の活動や思想をもう少し調べてみたいと思った。 https://youtu.be/eYHnwjIMXgE 『ブラックパワー・ミックステープ~アメリカの光と影~』The Black Power Mixtape...
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