オーストラリアからアメリカに引っ越してきたステファニーは、高校ではイケてるブループに入り、プロムクイーンになろうとチアリーディング部に入部、見事キャプテンになり、学校イチの人気者ブレインを恋人にし、最高学年を迎える。しかし、プロム直前の最後のチアリーディングで事故が起き、意識不明のまま20年が過ぎる。

20年後37歳で目覚めたステファニーは、高校に復学し、プロムクイーンを目指すが、かつての親友マーサが校長を務める学校はすっかり様変わりしていた。

ステファニーの鈍感力

(最初の)高校時代のステファニーは、オーストラリアからやって来た当初からのイケてない親友ふたり(マーサとセス)と友達付き合いは続けているものの、いちばん大事なのは恋人のブレインとプロムクイーンになること。セスはステファニーに恋心を抱いているがまったく気づきもしない。かと言って嫌な奴というわけではなく、嫌な奴の役目はライバルのティファニーが負っている。

20年後に目覚めたステファニーは、ブレインとティファニーが結婚して豪邸に住んでいるのを目にし、学校イチの人気者ブリーが二人の娘であることを知る。

人気の構図も20年前とは変わり、ブリーはSNSで人気を集め、しかもチャラチャラしているように見えて、社会問題などにも真面目に向き合っている。

チアもマーサのもと社会問題をテーマにしたダンスを踊るようになっていて、20年の間に起こった変化にステファニーは愕然とする。

しかし、ステファニーはここで鈍感力を発揮する。20年後の社会の価値観を知らないのだから当たり前といえば当たり前だが、20年前のやり方を押し通し、それが奇異の目で見られていることに気づきもしない。

その鈍感力は、常に周りの目(しかも全世界の)を気にして生きる現代の高校生の目には新鮮に映り、彼女の生き方に魅了されていく。

ファッションも20年周期で繰り返されるというが、若者というのは20年くらいのものに魅力を感じるものなのかもしれない。レトロで、でも親から間接的に見知っていてギリギリ想像力が及び、現在から見ると新鮮に映るちょうどいい昔が20年前なのだろう。

そんな20年前からタイムスリップしてきたようなステファニーはスターになるべくしてなったのかもしれない。最初に出会ったギークたちがすぐにステファニーに魅力を感じたのがそれを端的に示している。

しっかりした若者たち

もちろん、現在の価値観からすると批判される価値観ではある。でも、それは現在のポリティカル・コレクトネスが行き過ぎてはいないだろうかという疑問にもなる。SNSとポリコレにガチガチに固められた若者たちは、社会と向き合ってもいて、しっかりして見えるが、やはり若者はあくまで若者でどこかにそんな殻を打ち破りたいという気持ちを持っているはずだ。だから20年前のままのステファニーの自由さに憧れる。

しかし、その自由が実は周囲を犠牲にして成り立つものであったこともしっかりと語られる。マーサが実はゲイだとステファニーに告白し、高校時代は苦しかったと語る。LGBTQの若者たちの視点から見れば20年前のより現在のほうが生きやすいに違いないし、絶対にそうあるべきだ。

ただ、そのために大人の価値観で若者をがんじがらめにしてしまうのはどうなのか、現代のしっかりした若者たちは自分でそこのバランスがうまく取れるのではないか。プロムキングとクイーンという制度の是非も、大人による押しつけではなく、若者たちが望むかどうか、マイノリティへの眼差しも維持しながら、若者自身が決めることができるはずだ。

この映画は、自分が若かった頃のことを思い出し、今の若者に対する態度を改めよと大人たちに投げかけているのだろう。

レベル・ウィルソンは20年前の高校生の心を持った37歳を見事に演じている。20年も昏睡していて37歳になっているから体は衰えているはずなのに、全く衰えていないのはちょっと気にはなるが、17歳のままの心が体にも現れていると考えるしかないし、だからこそ面白いというところもある。

そして、失われた20年を取り戻そうとする彼女の真摯な姿勢は私たちが見習うべきものでもあるのかもしれない。

『シニアイヤー』
Senior Year
2022年/アメリカ/113分
監督:アレックス・ハードキャッスル
原案:アンドリュー・クノアー、アーサー・ピエッリ
脚本:アンドリュー・クノアー、アーサー・ピエッリ、ブランドン・スコット・ジョーンズ
撮影:マルコ・ファルニョーリ
音楽:ジャーメイン・ステゴール
出演:レベル・ウィルソン、ゾーイ・チャオ、サム・リチャードソン、メアリー・ホランド、ジャスティン・ハートリー

https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2022/05/senioryear.jpg?fit=640%2C360&ssl=1https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2022/05/senioryear.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieコメディ
オーストラリアからアメリカに引っ越してきたステファニーは、高校ではイケてるブループに入り、プロムクイーンになろうとチアリーディング部に入部、見事キャプテンになり、学校イチの人気者ブレインを恋人にし、最高学年を迎える。しかし、プロム直前の最後のチアリーディングで事故が起き、意識不明のまま20年が過ぎる。 20年後37歳で目覚めたステファニーは、高校に復学し、プロムクイーンを目指すが、かつての親友マーサが校長を務める学校はすっかり様変わりしていた。 ステファニーの鈍感力 (最初の)高校時代のステファニーは、オーストラリアからやって来た当初からのイケてない親友ふたり(マーサとセス)と友達付き合いは続けているものの、いちばん大事なのは恋人のブレインとプロムクイーンになること。セスはステファニーに恋心を抱いているがまったく気づきもしない。かと言って嫌な奴というわけではなく、嫌な奴の役目はライバルのティファニーが負っている。 20年後に目覚めたステファニーは、ブレインとティファニーが結婚して豪邸に住んでいるのを目にし、学校イチの人気者ブリーが二人の娘であることを知る。 人気の構図も20年前とは変わり、ブリーはSNSで人気を集め、しかもチャラチャラしているように見えて、社会問題などにも真面目に向き合っている。 チアもマーサのもと社会問題をテーマにしたダンスを踊るようになっていて、20年の間に起こった変化にステファニーは愕然とする。 しかし、ステファニーはここで鈍感力を発揮する。20年後の社会の価値観を知らないのだから当たり前といえば当たり前だが、20年前のやり方を押し通し、それが奇異の目で見られていることに気づきもしない。 その鈍感力は、常に周りの目(しかも全世界の)を気にして生きる現代の高校生の目には新鮮に映り、彼女の生き方に魅了されていく。 ファッションも20年周期で繰り返されるというが、若者というのは20年くらいのものに魅力を感じるものなのかもしれない。レトロで、でも親から間接的に見知っていてギリギリ想像力が及び、現在から見ると新鮮に映るちょうどいい昔が20年前なのだろう。 そんな20年前からタイムスリップしてきたようなステファニーはスターになるべくしてなったのかもしれない。最初に出会ったギークたちがすぐにステファニーに魅力を感じたのがそれを端的に示している。 しっかりした若者たち もちろん、現在の価値観からすると批判される価値観ではある。でも、それは現在のポリティカル・コレクトネスが行き過ぎてはいないだろうかという疑問にもなる。SNSとポリコレにガチガチに固められた若者たちは、社会と向き合ってもいて、しっかりして見えるが、やはり若者はあくまで若者でどこかにそんな殻を打ち破りたいという気持ちを持っているはずだ。だから20年前のままのステファニーの自由さに憧れる。 しかし、その自由が実は周囲を犠牲にして成り立つものであったこともしっかりと語られる。マーサが実はゲイだとステファニーに告白し、高校時代は苦しかったと語る。LGBTQの若者たちの視点から見れば20年前のより現在のほうが生きやすいに違いないし、絶対にそうあるべきだ。 ただ、そのために大人の価値観で若者をがんじがらめにしてしまうのはどうなのか、現代のしっかりした若者たちは自分でそこのバランスがうまく取れるのではないか。プロムキングとクイーンという制度の是非も、大人による押しつけではなく、若者たちが望むかどうか、マイノリティへの眼差しも維持しながら、若者自身が決めることができるはずだ。 この映画は、自分が若かった頃のことを思い出し、今の若者に対する態度を改めよと大人たちに投げかけているのだろう。 レベル・ウィルソンは20年前の高校生の心を持った37歳を見事に演じている。20年も昏睡していて37歳になっているから体は衰えているはずなのに、全く衰えていないのはちょっと気にはなるが、17歳のままの心が体にも現れていると考えるしかないし、だからこそ面白いというところもある。 そして、失われた20年を取り戻そうとする彼女の真摯な姿勢は私たちが見習うべきものでもあるのかもしれない。 https://youtu.be/HCtDkpe89aY 『シニアイヤー』Senior Year2022年/アメリカ/113分監督:アレックス・ハードキャッスル原案:アンドリュー・クノアー、アーサー・ピエッリ脚本:アンドリュー・クノアー、アーサー・ピエッリ、ブランドン・スコット・ジョーンズ撮影:マルコ・ファルニョーリ音楽:ジャーメイン・ステゴール出演:レベル・ウィルソン、ゾーイ・チャオ、サム・リチャードソン、メアリー・ホランド、ジャスティン・ハートリー
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