伝説のフラメンコダンサーと言われるラ・チャナは、14歳のときにおじのバンドに合わせて踊って才能を開花させる。映画に出演したことで人気ダンサーとなり、テレビ出演や世界ツアーなどをやるまでになるが、マネージャーの夫の反対で突然、表舞台から姿を消す。そこには彼女が属するヒターノ(ジプシー)社会の男尊女卑の風潮があった。
踊りであり演奏でもあるダンス
フラメンコというと「踊り」だが、この映画を見ると、踊りでありかつ踊ることが音楽を奏でることになってもいることがわかる。フラメンコは激しいステップで踊るが、靴底が床を打つときにタップダンスのように音を奏でる。それがバンドの演奏とあわさって音楽になるのだ。
ラ・チャナは超絶技巧でこれまでの誰とも違う踊りを踊った。アーカイブ映像を見ると、その踊りは本当にすごい。音楽と踊りが一体となった芸術、それがフラメンコなのだということが画面から伝わってくる。
そんな不世出のダンサーを芸術の世界から引き離してしまう社会の有り様は絶望的で、その不平等は本来なら社会的なテーマとし捉えるべき話題だろう。ただ、この映画はその不平等を告発する映画ではないと私は思った。
社会を変える芸術の力
いまラ・チャナは新しい夫のサポートを受けて、ステージ上で踊り、若いダンサーたちに教えたりもしている。膝を悪くしてかつてのようには踊れないけれど、椅子に座っていても彼女の踊りは素晴らしく、若いダンサーたちには太刀打ちできない。
そんなラ・チャナから数十年が奪われてしまったことは悲劇だし、世界にとって損失だけれど、それでも彼女は素晴らしいし、そんな苦難の中でも自分の踊りを持ちづづけ、高齢になってからも披露し、後輩に伝えていこうとしている姿勢はさらに素晴らしい。
芸術はときに社会によってその発言の場を奪われてしまう。しかし、芸術にはそんな社会を変える力もある。ラ・チャナがヒターノの封建的な風習を(時間はかかったけれども)打ち破って再び踊ることができたのは彼女の芸術の持つ力によるものだ。
昔の映像をみても、今の座りながらのステージを見ても、その力は十分に伝わってくる。この映画はとにかく彼女の魅力を味わえばいい、それでこの映画が言いたいことは伝わるはずだ。
『ラ・チャナ』
La Chana
2016年/スペイン=アイスランド=アメリカ/86分
監督:ルツィヤ・ストイェビッチ
撮影:サミュエル・ナベレテ
出演:ラ・チャナ
https://socine.info/2020/07/07/la-chana/https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/07/lachana_main.jpg?fit=1024%2C576&ssl=1https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/07/lachana_main.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieアート,ドキュメンタリー(C)2016 Noon Films S.L. Radiotelevisión Española Bless Bless Productions
伝説のフラメンコダンサーと言われるラ・チャナは、14歳のときにおじのバンドに合わせて踊って才能を開花させる。映画に出演したことで人気ダンサーとなり、テレビ出演や世界ツアーなどをやるまでになるが、マネージャーの夫の反対で突然、表舞台から姿を消す。そこには彼女が属するヒターノ(ジプシー)社会の男尊女卑の風潮があった。
踊りであり演奏でもあるダンス
フラメンコというと「踊り」だが、この映画を見ると、踊りでありかつ踊ることが音楽を奏でることになってもいることがわかる。フラメンコは激しいステップで踊るが、靴底が床を打つときにタップダンスのように音を奏でる。それがバンドの演奏とあわさって音楽になるのだ。
ラ・チャナは超絶技巧でこれまでの誰とも違う踊りを踊った。アーカイブ映像を見ると、その踊りは本当にすごい。音楽と踊りが一体となった芸術、それがフラメンコなのだということが画面から伝わってくる。
そんな不世出のダンサーを芸術の世界から引き離してしまう社会の有り様は絶望的で、その不平等は本来なら社会的なテーマとし捉えるべき話題だろう。ただ、この映画はその不平等を告発する映画ではないと私は思った。
社会を変える芸術の力
いまラ・チャナは新しい夫のサポートを受けて、ステージ上で踊り、若いダンサーたちに教えたりもしている。膝を悪くしてかつてのようには踊れないけれど、椅子に座っていても彼女の踊りは素晴らしく、若いダンサーたちには太刀打ちできない。
(C)2016 Noon Films S.L. Radiotelevisión Española Bless Bless Productions
そんなラ・チャナから数十年が奪われてしまったことは悲劇だし、世界にとって損失だけれど、それでも彼女は素晴らしいし、そんな苦難の中でも自分の踊りを持ちづづけ、高齢になってからも披露し、後輩に伝えていこうとしている姿勢はさらに素晴らしい。
芸術はときに社会によってその発言の場を奪われてしまう。しかし、芸術にはそんな社会を変える力もある。ラ・チャナがヒターノの封建的な風習を(時間はかかったけれども)打ち破って再び踊ることができたのは彼女の芸術の持つ力によるものだ。
昔の映像をみても、今の座りながらのステージを見ても、その力は十分に伝わってくる。この映画はとにかく彼女の魅力を味わえばいい、それでこの映画が言いたいことは伝わるはずだ。
(C)2016 Noon Films S.L. Radiotelevisión Española Bless Bless Productions
『ラ・チャナ』La Chana2016年/スペイン=アイスランド=アメリカ/86分監督:ルツィヤ・ストイェビッチ撮影:サミュエル・ナベレテ出演:ラ・チャナ
Kenji
Ishimuraishimura@cinema-today.netAdministratorライター/映画観察者。
2000年から「ヒビコレエイガ」主宰、ライターとしてgreenz.jpなどに執筆中。まとめサイト→https://note.mu/ishimurakenji
映画、アート、書籍などのレビュー記事、インタビュー記事、レポート記事が得意。ソーシネ
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