冒頭、砂漠で水無しで7日間を過ごし死亡したエピソードが流れる。水はそれだけ生物にとって欠かせないものだということだ。そして、その水がいま危機にあると指摘して物語が展開されていく。

物語の軸になるのは、水道の民営化によるグローバル企業の水利権の寡占。これによって水道料金は上がり、途上国の人たちにきれいな水が行き届かなくなってしまう。

さらに、ボトル入りの水が水源を枯らし、果ては湖まで消失させてしまう恐れがあることを指摘する。今世界で人間が利用できる淡水は不足し、水を巡る争いが起きているのだ。

日本では実感がない水問題の実像とは

水が豊富とされる日本にいるとそんな危機を感じることはほとんどできない。水道の民営化のニュースが報じられることもあるし、水源地帯の土地を中国などの外国資本が買っているというニュースが流れたりもする。しかし、それが水危機につながるという実体はない。

でも、この映画を見ると、水問題というのは、水だけの問題ではなく地球上のあらゆる環境問題、経済問題とつながっていることがわかるし、豊富な水資源を持っていようと否応なくその問題に巻き込まれてしまうこともわかる。すべての問題はつながっていて、すべての問題を解こうとすると水問題も避けて通れないのだ。

一番印象的だったのが海水淡水化装置の話だ。地球上で不足している水というのは、利用可能な淡水の話で、水自体はたくさんある。それじゃあ海水を淡水にして使えばいいじゃないかという話になる。海水淡水化の技術自体はすでにあるのでそれで水不足は解消するはずだと。

でも、そう簡単には行かない。経済的な話をすると、それにはコストが掛かり、水の値段は高くなる。それをどう賄うのか。環境の面から考えると、海水を淡水化するにはエネルギーが要る。化石燃料を燃やしてそのエネルギーを得るのでは温暖化を加速させるし、原発を使うというのも核のゴミの問題を起こす。自然エネルギーを使えばいいのだが、それが可能なのかはわからない。

水不足という一つの問題に対して海水淡水化という一つの解があるなら問題解決は簡単だが、その解法では問題の所在を他に移すだけで全体を見ると何も解決していないということだ。

それならば、本来は全体を見て最もマイナスが少ない方法を探しそれを実行するべきなのだ。しかし、人はわかりやすい答えを求める。だからグローバル企業はそれをうまく利用して解決策を提示し金を儲ける。それで世界は悪循環に陥って行っていくのだ。

複雑な問題のわかりやすい解法とは

もちろん、問題を解決しようという側も方法を考えている。最近で言えばSDGsがその解法のひとつと言えるだろう。ただ、SDGsはわかりにくい。複雑な問題を複雑なまま解こうとしているのだからわかりにくくなるのは当たり前なのだけれど、わかりにくいことを人はしたがらない。だからSDGsはなかなかうまく行かない。キャッチーなネーミングをし、インフォグラフィックやデザインの力でなんとか人々を引き込もうとしているけれど、グローバル企業の単純化の前では簡単に敗れ去ってしまうのだ。

どうすればいいのか。

この映画にはそのヒントもある。それは、同じように単純な答えを用意することだ。例えば、人々から寄付を募ってアフリカに井戸を作ったアメリカの少年。グローバル企業は井戸は作るが使うのにお金が必要な仕組みも一緒に作る。そうすると貧しい人は結局水を手に入れられない。でも善意で作られた井戸は誰でも無料で使うことができる。これでアフリカ中に井戸を作ることはできないが、対抗する手段があることはわかる。

もうひとり、学校の売店でボトル入りの水を売ることを止めさせた少年も出てくる。公共物であるはずの水で商売することをやめさせたいなら買わなければいいという単純な解法だ。

私たちも日常生活の中で、一つ一つの問題についてより単純な答えは無いか考えることが重要だ。外出先でのどが渇いたとき、コンビニでボトル入りの水を買うのがいいのか、買わざるを得ないとしたらどれを選ぶべきなのか、少し面倒くさいけれど、そういう小さなことの積み重ねでしか問題は解決していかない。

しかも、水は私たちの生活に欠かせない。だからみんなが考えれば確実に問題は解決へと向かっていくはずだ。この映画が教えてくれるのはそんな暮らしのあり方なのかも知れない。

『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』
Blue Gold: World Water Wars
2008年/アメリカ/90分
監督・脚本・撮影:サム・ボッゾ
原作:モード・バーロウ、トニー・クラーク
音楽:トーマス・アイチンガー、ハネス・ベルトリーニ
ナレーション:マルコム・マクダウェル

https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/07/bgmain_large.jpg?fit=500%2C333&ssl=1https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/07/bgmain_large.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieドキュメンタリー,環境問題
冒頭、砂漠で水無しで7日間を過ごし死亡したエピソードが流れる。水はそれだけ生物にとって欠かせないものだということだ。そして、その水がいま危機にあると指摘して物語が展開されていく。 物語の軸になるのは、水道の民営化によるグローバル企業の水利権の寡占。これによって水道料金は上がり、途上国の人たちにきれいな水が行き届かなくなってしまう。 さらに、ボトル入りの水が水源を枯らし、果ては湖まで消失させてしまう恐れがあることを指摘する。今世界で人間が利用できる淡水は不足し、水を巡る争いが起きているのだ。 日本では実感がない水問題の実像とは 水が豊富とされる日本にいるとそんな危機を感じることはほとんどできない。水道の民営化のニュースが報じられることもあるし、水源地帯の土地を中国などの外国資本が買っているというニュースが流れたりもする。しかし、それが水危機につながるという実体はない。 でも、この映画を見ると、水問題というのは、水だけの問題ではなく地球上のあらゆる環境問題、経済問題とつながっていることがわかるし、豊富な水資源を持っていようと否応なくその問題に巻き込まれてしまうこともわかる。すべての問題はつながっていて、すべての問題を解こうとすると水問題も避けて通れないのだ。 一番印象的だったのが海水淡水化装置の話だ。地球上で不足している水というのは、利用可能な淡水の話で、水自体はたくさんある。それじゃあ海水を淡水にして使えばいいじゃないかという話になる。海水淡水化の技術自体はすでにあるのでそれで水不足は解消するはずだと。 でも、そう簡単には行かない。経済的な話をすると、それにはコストが掛かり、水の値段は高くなる。それをどう賄うのか。環境の面から考えると、海水を淡水化するにはエネルギーが要る。化石燃料を燃やしてそのエネルギーを得るのでは温暖化を加速させるし、原発を使うというのも核のゴミの問題を起こす。自然エネルギーを使えばいいのだが、それが可能なのかはわからない。 水不足という一つの問題に対して海水淡水化という一つの解があるなら問題解決は簡単だが、その解法では問題の所在を他に移すだけで全体を見ると何も解決していないということだ。 それならば、本来は全体を見て最もマイナスが少ない方法を探しそれを実行するべきなのだ。しかし、人はわかりやすい答えを求める。だからグローバル企業はそれをうまく利用して解決策を提示し金を儲ける。それで世界は悪循環に陥って行っていくのだ。 複雑な問題のわかりやすい解法とは もちろん、問題を解決しようという側も方法を考えている。最近で言えばSDGsがその解法のひとつと言えるだろう。ただ、SDGsはわかりにくい。複雑な問題を複雑なまま解こうとしているのだからわかりにくくなるのは当たり前なのだけれど、わかりにくいことを人はしたがらない。だからSDGsはなかなかうまく行かない。キャッチーなネーミングをし、インフォグラフィックやデザインの力でなんとか人々を引き込もうとしているけれど、グローバル企業の単純化の前では簡単に敗れ去ってしまうのだ。 どうすればいいのか。 この映画にはそのヒントもある。それは、同じように単純な答えを用意することだ。例えば、人々から寄付を募ってアフリカに井戸を作ったアメリカの少年。グローバル企業は井戸は作るが使うのにお金が必要な仕組みも一緒に作る。そうすると貧しい人は結局水を手に入れられない。でも善意で作られた井戸は誰でも無料で使うことができる。これでアフリカ中に井戸を作ることはできないが、対抗する手段があることはわかる。 もうひとり、学校の売店でボトル入りの水を売ることを止めさせた少年も出てくる。公共物であるはずの水で商売することをやめさせたいなら買わなければいいという単純な解法だ。 私たちも日常生活の中で、一つ一つの問題についてより単純な答えは無いか考えることが重要だ。外出先でのどが渇いたとき、コンビニでボトル入りの水を買うのがいいのか、買わざるを得ないとしたらどれを選ぶべきなのか、少し面倒くさいけれど、そういう小さなことの積み重ねでしか問題は解決していかない。 しかも、水は私たちの生活に欠かせない。だからみんなが考えれば確実に問題は解決へと向かっていくはずだ。この映画が教えてくれるのはそんな暮らしのあり方なのかも知れない。 https://youtu.be/XLHgtQ__1aU 『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』Blue Gold: World Water Wars2008年/アメリカ/90分監督・脚本・撮影:サム・ボッゾ原作:モード・バーロウ、トニー・クラーク音楽:トーマス・アイチンガー、ハネス・ベルトリーニナレーション:マルコム・マクダウェル
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