遺伝子組み換え(GM)作物の話かと思ったら、映画は広島から始まる。この映画が扱うのは、GMと原子力(放射能)の2つ。その2つが人類の食料を聞きにさらしていると訴える内容だ。

物語の主軸となるのは、GM作物が動物に与える影響を調べる2年に渡る動物実験。この実験のターゲットとなったのはモンサントのGM作物で、モンサントはわずか3ヶ月の実験で危険性はないと判断したが、より長期に渡る実験が必要だと考えた科学者たちが独自に実験を行うことを決める。

しかし、モンサントは自社以外が実験を行うことを拒否していたため、裏のルートで種子を手に入れ、実験も発表までは完全に秘密で行われることになる。この映画はその実験をはじめから撮影しているので、いったいどんな結果が出るのかが映画の見どころとなる。

ここではあえて結果については書かない。知らない人にとってネタバレになるというのもあるけれど、それはこの映画にとってあくまで一つの要素に過ぎないからだ。

この映画では主軸となる実験の信仰と並行して、農業を取り巻く様々な汚染問題を取り上げる。一つは農薬、GMと農薬はセットなので、GMが広まるということは農薬もより広く使われることになるわけで、そうなると農薬による健康被害も拡大する恐れがある。

そこで、農薬によって健康を害したり命を落とした人々の話を聞き、農薬の恐ろしさを伝えようとする。この農薬の問題については2008年の『未来の食卓』から取り上げているので、あわせてみると問題の在り処がよく分かる。そこから4年が経ち、より広く問題を捉え得るようになったのではないか。

そして、もう一つ土地を汚染するのが放射性物質だ。フランスは原発大国の一つで、過去に繰り返し事故も起きている。その影響で農地が汚染され、実際に被害も出てしまっているのだ。

その中で起きた福島第一原発事故。この衝撃的な事故を受けて監督は現地に赴き、状況調査や住民へのインタビューを敢行する。

汚染という意味では非常に大きく、同じ原発大国のフランスにとっては他人事ではなかったため、一つの大きなトピックとして入れることを決断したのだろうが、これによってこの映画は問題の所在が多岐にわたりすぎ、わかりにくくなってしまった。

一つ一つの問題は非常に重要で、しかも解決が非常に困難なので、知っておくべきことなのは間違いない。しかし、それがいくつもいくつも出てくると、私たちは一体どうすればいいのかわからなくなり、さらには問題の所在もわからなくなってしまう。無力感に襲われ、諦めにも似た気持ちが湧いてきてしまう。

問題は提起したけれど、その先にあるのは絶望で、解決の糸口すら見えない。もちろん私たち一人一人が選択し、行動するしか方法がないことはわかっているのだけれど、それで解決するとは到底思えないほど問題が大きく見えてしまうのだ。

私たちの食料と農業が今直面している危機がどのようなものかを知るためには必見の映画ということはできるが、私はもっとポジティブな映画が見たかった。同じGMを扱った映画では『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』のほうが、刺さる作品だったように思う。

『世界が食べられなくなる日』
Tous cobayes?
2012年/フランス/118分
監督・脚本:ジャン=ポール・ジョー
ナレーション:フィリップ・トレトン

https://i0.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/06/cobaye_main_s_large.jpg?fit=640%2C350&ssl=1https://i0.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/06/cobaye_main_s_large.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieVODドキュメンタリー,食
遺伝子組み換え(GM)作物の話かと思ったら、映画は広島から始まる。この映画が扱うのは、GMと原子力(放射能)の2つ。その2つが人類の食料を聞きにさらしていると訴える内容だ。 物語の主軸となるのは、GM作物が動物に与える影響を調べる2年に渡る動物実験。この実験のターゲットとなったのはモンサントのGM作物で、モンサントはわずか3ヶ月の実験で危険性はないと判断したが、より長期に渡る実験が必要だと考えた科学者たちが独自に実験を行うことを決める。 しかし、モンサントは自社以外が実験を行うことを拒否していたため、裏のルートで種子を手に入れ、実験も発表までは完全に秘密で行われることになる。この映画はその実験をはじめから撮影しているので、いったいどんな結果が出るのかが映画の見どころとなる。 ここではあえて結果については書かない。知らない人にとってネタバレになるというのもあるけれど、それはこの映画にとってあくまで一つの要素に過ぎないからだ。 この映画では主軸となる実験の信仰と並行して、農業を取り巻く様々な汚染問題を取り上げる。一つは農薬、GMと農薬はセットなので、GMが広まるということは農薬もより広く使われることになるわけで、そうなると農薬による健康被害も拡大する恐れがある。 そこで、農薬によって健康を害したり命を落とした人々の話を聞き、農薬の恐ろしさを伝えようとする。この農薬の問題については2008年の『未来の食卓』から取り上げているので、あわせてみると問題の在り処がよく分かる。そこから4年が経ち、より広く問題を捉え得るようになったのではないか。 そして、もう一つ土地を汚染するのが放射性物質だ。フランスは原発大国の一つで、過去に繰り返し事故も起きている。その影響で農地が汚染され、実際に被害も出てしまっているのだ。 その中で起きた福島第一原発事故。この衝撃的な事故を受けて監督は現地に赴き、状況調査や住民へのインタビューを敢行する。 汚染という意味では非常に大きく、同じ原発大国のフランスにとっては他人事ではなかったため、一つの大きなトピックとして入れることを決断したのだろうが、これによってこの映画は問題の所在が多岐にわたりすぎ、わかりにくくなってしまった。 一つ一つの問題は非常に重要で、しかも解決が非常に困難なので、知っておくべきことなのは間違いない。しかし、それがいくつもいくつも出てくると、私たちは一体どうすればいいのかわからなくなり、さらには問題の所在もわからなくなってしまう。無力感に襲われ、諦めにも似た気持ちが湧いてきてしまう。 問題は提起したけれど、その先にあるのは絶望で、解決の糸口すら見えない。もちろん私たち一人一人が選択し、行動するしか方法がないことはわかっているのだけれど、それで解決するとは到底思えないほど問題が大きく見えてしまうのだ。 私たちの食料と農業が今直面している危機がどのようなものかを知るためには必見の映画ということはできるが、私はもっとポジティブな映画が見たかった。同じGMを扱った映画では『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』のほうが、刺さる作品だったように思う。 https://youtu.be/gr8DiizVX2s 『世界が食べられなくなる日』Tous cobayes?2012年/フランス/118分監督・脚本:ジャン=ポール・ジョーナレーション:フィリップ・トレトン
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