(c) 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

映画史上最も有名な未完の作品ともいわれる『DUNE』。『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』などを監督したアレハンドロ・ホドロフスキーが、フランク・ハーバートのSF小説をもとに2年半の歳月をかけて準備した作品だった。

この映画はホドロフスキーがどうやって作品を作ろうとしていたのか、実現していたらどのようなものになっていたのか、そしてなぜ計画は頓挫してしまったのかをとくほぐしていくドキュメンタリーになっている。

若い才能とレジェンドが集まった信じがたい現場

映画の進行は、まず最初に『DUNE』の概要を提示し、次にホドロフスキーが映画界に踏み入れ、『DUNE』の制作に乗り出すまでの道のりを説明する。門外漢だったホドロフスキーは映画界に殴り込み、『エル・トポ』で意外なヒットを飛ばし、さらに『ホーリー・マウンテン』でヨーロッパで評価を得る。そしてフランスで映画を配給したミシェル・セドゥーに出会い、『DUNE』の制作に乗り出す。

この時点では原作があるだけでなんの計画もなかったが、ホドロフスキーはこれを単なるSF映画ではない預言の書にすると意気込んで、協力者を探し始める。最初に見つけたのがフランスのバンド・デシネ作家のメビウス、その絵に自分の映像を見出したホドロフスキーは彼に絵コンテを任せる。

さらに画家のクリス・フォス、特殊効果のダン・オバノンと映画業界では有名ではないけれど才能ある若者を見つけチームに加えていくのだ。そして、主役の少年は自分の息子に演じさせることに決め、武術や精神の修行までさせる。

そしてさらに、音楽にピンク・フロイド、キャラクター・デザインにH・R・ギーガーを起用。後に『エイリアン』などで知られるようになるギーガーはこの作品で初めて映画に関わったという。

ギーガーの描いた建物のデザイン (c) 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED

順調に準備をすすめるホドロフスキーは、これに加えてオーソン・ウェルズや画家のダリ、ミック・ジャガーを口説き落として出演者に加える。

これらのエピソードを聞き、絵コンテやキャラクターの原画を見ていると、この映画を見たい気持ちがどんどん高まっていき、これが実現しなかったなんて信じられないという気持ちになる。

制作中止が意味するもの

しかしこの映画の制作は本格的な撮影に入る直前に中止される。その理由は簡単に言えば金だ。ホドロフスキーはインタビューの途中にポケットに入っていた札束を取り出し「こんなものにはなんの中身もないただの紙切れだ」というようなことを言う。しかし、彼が魂を込めて準備してきた芸術は金のために頓挫してしまう。

しかもホドロフスキーでは儲からないというのが最大の理由だ。ハリウッドの制作会社は実験的な姿勢で「作品の長さは12時間になる」などと言うホドロフスキーに難色を示す。それはそうだ。12時間の映画なんてヒットするわけないし、ヒットしたとしても1日1回しか上映できないから儲からない。彼らにしてみれば合理的な判断だろう。

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それでも企画自体は買っていたのデヴィッド・リンチに監督させて作品を世に出す。それが『デューン/砂の惑星』だ。この映画の評価はまた別の話だが、映画の締めくくりは、ホドロフスキーの『DUNE』が現在の映画界に影響を与えたという話。DUNEの絵コンテにそっくりのシーンが『スター・ウォーズ』を始めとしたSF作品に登場するし、DUNEに参加した若きスタッフたちはその後映画界で活躍した。

つまり、ホドロフスキーは早すぎたという結論になる。

この結論にはうなずけるものがある。いまならホドロフスキーの『DUNE』は制作されただろう。NETFLIXの連続ドラマを考えれば12時間なんて決して長くないし、そのための予算もとれたに違いない。

でも、頓挫したということに意味があるような気もする。苦難を乗り越えて実現したとしても、やはり早すぎて世間に受け入れられず、ホドロフスキーは借金まみれになり、才能ある若者の未来も潰れてしまっていたかも知れない。この作品は頓挫したことで映画史に足跡を残せたのではないか。もちろん後に評価はされただろうけれど、その価値と頓挫したことで生み出された価値のどちらが高いかは今となってはわからない。

さらに、最後の最後にこのドキュメンタリーによってホドロフスキーとセイドゥーが再会したことで『リアリティのダンス』が制作されることになったという後日談が挿入される。『リアリティのダンス』からホドロフスキーは映画製作に復帰し、素晴らしい作品を生み出している。時間はかかったけれど、自分が作りたい映画を作れているのだ。

この映画を通して私がホドロフスキーから学んだのは、未来のことなんてわからないんだから、何が起きてもそれは受け止め方次第だということだ。

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『ホドロフスキーのDUNE』
Jodorowsky’s Dune
2013年/アメリカ/90分
監督:フランク・パビッチ
撮影:デビッド・カバロ
音楽:カート・シュテンツェル
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セイドゥー、H・R・ギーガー、ブロンティス・ホドロフスキー

https://socine.info/wp-content/uploads/2020/06/dune_sub02-1024x732.jpghttps://socine.info/wp-content/uploads/2020/06/dune_sub02-300x300.jpgishimuraMovieVODアレハンドロ・ホドロフスキー,ドキュメンタリー
(c) 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED 映画史上最も有名な未完の作品ともいわれる『DUNE』。『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』などを監督したアレハンドロ・ホドロフスキーが、フランク・ハーバートのSF小説をもとに2年半の歳月をかけて準備した作品だった。 この映画はホドロフスキーがどうやって作品を作ろうとしていたのか、実現していたらどのようなものになっていたのか、そしてなぜ計画は頓挫してしまったのかをとくほぐしていくドキュメンタリーになっている。 若い才能とレジェンドが集まった信じがたい現場 映画の進行は、まず最初に『DUNE』の概要を提示し、次にホドロフスキーが映画界に踏み入れ、『DUNE』の制作に乗り出すまでの道のりを説明する。門外漢だったホドロフスキーは映画界に殴り込み、『エル・トポ』で意外なヒットを飛ばし、さらに『ホーリー・マウンテン』でヨーロッパで評価を得る。そしてフランスで映画を配給したミシェル・セドゥーに出会い、『DUNE』の制作に乗り出す。 この時点では原作があるだけでなんの計画もなかったが、ホドロフスキーはこれを単なるSF映画ではない預言の書にすると意気込んで、協力者を探し始める。最初に見つけたのがフランスのバンド・デシネ作家のメビウス、その絵に自分の映像を見出したホドロフスキーは彼に絵コンテを任せる。 さらに画家のクリス・フォス、特殊効果のダン・オバノンと映画業界では有名ではないけれど才能ある若者を見つけチームに加えていくのだ。そして、主役の少年は自分の息子に演じさせることに決め、武術や精神の修行までさせる。 そしてさらに、音楽にピンク・フロイド、キャラクター・デザインにH・R・ギーガーを起用。後に『エイリアン』などで知られるようになるギーガーはこの作品で初めて映画に関わったという。 ギーガーの描いた建物のデザイン (c) 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED 順調に準備をすすめるホドロフスキーは、これに加えてオーソン・ウェルズや画家のダリ、ミック・ジャガーを口説き落として出演者に加える。 これらのエピソードを聞き、絵コンテやキャラクターの原画を見ていると、この映画を見たい気持ちがどんどん高まっていき、これが実現しなかったなんて信じられないという気持ちになる。 制作中止が意味するもの しかしこの映画の制作は本格的な撮影に入る直前に中止される。その理由は簡単に言えば金だ。ホドロフスキーはインタビューの途中にポケットに入っていた札束を取り出し「こんなものにはなんの中身もないただの紙切れだ」というようなことを言う。しかし、彼が魂を込めて準備してきた芸術は金のために頓挫してしまう。 しかもホドロフスキーでは儲からないというのが最大の理由だ。ハリウッドの制作会社は実験的な姿勢で「作品の長さは12時間になる」などと言うホドロフスキーに難色を示す。それはそうだ。12時間の映画なんてヒットするわけないし、ヒットしたとしても1日1回しか上映できないから儲からない。彼らにしてみれば合理的な判断だろう。 (c) 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED それでも企画自体は買っていたのデヴィッド・リンチに監督させて作品を世に出す。それが『デューン/砂の惑星』だ。この映画の評価はまた別の話だが、映画の締めくくりは、ホドロフスキーの『DUNE』が現在の映画界に影響を与えたという話。DUNEの絵コンテにそっくりのシーンが『スター・ウォーズ』を始めとしたSF作品に登場するし、DUNEに参加した若きスタッフたちはその後映画界で活躍した。 つまり、ホドロフスキーは早すぎたという結論になる。 この結論にはうなずけるものがある。いまならホドロフスキーの『DUNE』は制作されただろう。NETFLIXの連続ドラマを考えれば12時間なんて決して長くないし、そのための予算もとれたに違いない。 でも、頓挫したということに意味があるような気もする。苦難を乗り越えて実現したとしても、やはり早すぎて世間に受け入れられず、ホドロフスキーは借金まみれになり、才能ある若者の未来も潰れてしまっていたかも知れない。この作品は頓挫したことで映画史に足跡を残せたのではないか。もちろん後に評価はされただろうけれど、その価値と頓挫したことで生み出された価値のどちらが高いかは今となってはわからない。 さらに、最後の最後にこのドキュメンタリーによってホドロフスキーとセイドゥーが再会したことで『リアリティのダンス』が制作されることになったという後日談が挿入される。『リアリティのダンス』からホドロフスキーは映画製作に復帰し、素晴らしい作品を生み出している。時間はかかったけれど、自分が作りたい映画を作れているのだ。 この映画を通して私がホドロフスキーから学んだのは、未来のことなんてわからないんだから、何が起きてもそれは受け止め方次第だということだ。 (c) 2013 CITY FILM LLC, ALL RIGHTS RESERVED 『ホドロフスキーのDUNE』Jodorowsky's Dune2013年/アメリカ/90分監督:フランク・パビッチ撮影:デビッド・カバロ音楽:カート・シュテンツェル出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セイドゥー、H・R・ギーガー、ブロンティス・ホドロフスキー
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