テキサスでロデオに興じる電気技師のロン・ウッドルーフはエイズと診断され、余命30日を告げられる。エイズは「ホモ」の病気だと思われていた時代、バリバリの異性愛者のロンは診断を信じず医者に食って掛かる。しかし、コンドームなしの異性間のセックスやドラッグの注射器を介して感染することを知ったロンは、以前関係を持った女の腕にあった無数の注射痕を思い出す。
自身がHIV患者であることを認めたロンは、治験段階だったAZTを処方するよう主治医のイヴ・サックスに迫るが拒否され、治験の対象者だったトランスジェンダーのレイヨンから薬を買うようになる。それでも効果に満足がいかないロンはアメリカでは承認されていない薬を求めてメキシコへ向かう…
エイズが未知の病気だった80年代の実話を映画化。マシュー・マコノヒーはこの約を演じるために21キロも減量して熱演、アカデミー主演男優賞を受賞した。
単純に映画を楽しめばいい
この映画はなんとも痛快だ。ある意味自分勝手な主人公がアメリカの社会制度に立ち向かい、それに打ち勝つ物語だからだ。さらにその過程で、同性愛者嫌悪だった主人公はトランスジェンダーのパートナーと理解し合い、人間的にも成長するヒューマンドラマでもある。そして、その主人公ロン・ウッドルーフをマシュー・マコノヒーが見事に演じ、観客は引き込む。
だから単純に映画を楽しめばいい。人物造形が素晴らしく、映像の余韻というか間が絶妙なので、どんどん映画の世界に入り込んでいける。
もちろんそれだけで十分なのだが、実話をもとにしているだけに、映画の背後にある様々な問題にも自然と頭が行き、面白かったという感想とともに、それぞれが描かれていた問題について考えることになる。そういう意味ではただ面白いだけではない本当にいい映画だ。
差別を無化する現実
なので、言い足すことは特にないのだが、社会について述べなければならないことになっているので言い足すとならば、この映画は様々な差別を描いているところに注目したい。
ロン・ウッドルーフという主人公は完全なる差別主義者として登場する。南部の白人男性で、女性蔑視、同性愛嫌悪が著しい。人種差別の傾向もある。
ただ、ロンは根っからの差別主義者というわけではなく、世間の価値観にさらされてそうなっているだけだということが少しずつわかってくる。彼はオープンマインドで聞く耳は持っている。話を聞き、思っていたのと違って対等に話す価値がある相手だと分ければ相手を尊重するようになる。その相手が女医のイヴであり、トランスジェンダーのレイヨンである。
彼の目は差別意識で曇っていただけで、実際の「人」と向き合えばその曇りは消える。あるいは差別意識などにかまけていられないほど、現実に真摯に向き合わなければいけない状況に置かれているというべきか。
これは「差別」を考える上で大きなヒントになる。人は現実と向き合わなければならないとき、性別や人種やセクシャリティなどというものに重きを置かなくなる。自分が現実に対処するために必要な人間ならば、そんな違いは無視できるのだ。そんなことをロン・ウッドルーフは教えてくれる。
それでも差別意識にがんじがらめになって現実に向き合えない人もいる。曇りきった目が現実を見えなくしてしまっているのだ。そういう人にどう対処すればいいのかははっきり言ってわからない。それでもどこかに、そんな曇を無化してくれる現実がそれぞれの人にあるはずだ。周囲に影響されてなんとなく出来上がった差別意識など、現実の人と向き合って感じたこととは比肩しようがないからだ。
そんな薄っすらとした希望も、この映画は見せてくれる。もちろんそれだけで万事が解決するわけではないが。
『ダラス・バイヤーズクラブ』
Dalls Buyers Club
2013年/アメリカ/117分
監督:ジャン=マルク・バレ
脚本:クレイグ・ボーデン、メリッサ・ウォールラック
撮影:イブ・ベランジェ
音楽:カート&バート
出演:マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナー
https://socine.info/2022/08/17/dallas-buyers-club/https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2022/08/dbc_1.jpg?fit=640%2C426&ssl=1https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2022/08/dbc_1.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieLGBTQ,アカデミー賞,エイズ(C)2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Right
テキサスでロデオに興じる電気技師のロン・ウッドルーフはエイズと診断され、余命30日を告げられる。エイズは「ホモ」の病気だと思われていた時代、バリバリの異性愛者のロンは診断を信じず医者に食って掛かる。しかし、コンドームなしの異性間のセックスやドラッグの注射器を介して感染することを知ったロンは、以前関係を持った女の腕にあった無数の注射痕を思い出す。
自身がHIV患者であることを認めたロンは、治験段階だったAZTを処方するよう主治医のイヴ・サックスに迫るが拒否され、治験の対象者だったトランスジェンダーのレイヨンから薬を買うようになる。それでも効果に満足がいかないロンはアメリカでは承認されていない薬を求めてメキシコへ向かう…
エイズが未知の病気だった80年代の実話を映画化。マシュー・マコノヒーはこの約を演じるために21キロも減量して熱演、アカデミー主演男優賞を受賞した。
単純に映画を楽しめばいい
この映画はなんとも痛快だ。ある意味自分勝手な主人公がアメリカの社会制度に立ち向かい、それに打ち勝つ物語だからだ。さらにその過程で、同性愛者嫌悪だった主人公はトランスジェンダーのパートナーと理解し合い、人間的にも成長するヒューマンドラマでもある。そして、その主人公ロン・ウッドルーフをマシュー・マコノヒーが見事に演じ、観客は引き込む。
だから単純に映画を楽しめばいい。人物造形が素晴らしく、映像の余韻というか間が絶妙なので、どんどん映画の世界に入り込んでいける。
もちろんそれだけで十分なのだが、実話をもとにしているだけに、映画の背後にある様々な問題にも自然と頭が行き、面白かったという感想とともに、それぞれが描かれていた問題について考えることになる。そういう意味ではただ面白いだけではない本当にいい映画だ。
(C)2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Right
差別を無化する現実
なので、言い足すことは特にないのだが、社会について述べなければならないことになっているので言い足すとならば、この映画は様々な差別を描いているところに注目したい。
ロン・ウッドルーフという主人公は完全なる差別主義者として登場する。南部の白人男性で、女性蔑視、同性愛嫌悪が著しい。人種差別の傾向もある。
ただ、ロンは根っからの差別主義者というわけではなく、世間の価値観にさらされてそうなっているだけだということが少しずつわかってくる。彼はオープンマインドで聞く耳は持っている。話を聞き、思っていたのと違って対等に話す価値がある相手だと分ければ相手を尊重するようになる。その相手が女医のイヴであり、トランスジェンダーのレイヨンである。
(C)2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Right
彼の目は差別意識で曇っていただけで、実際の「人」と向き合えばその曇りは消える。あるいは差別意識などにかまけていられないほど、現実に真摯に向き合わなければいけない状況に置かれているというべきか。
これは「差別」を考える上で大きなヒントになる。人は現実と向き合わなければならないとき、性別や人種やセクシャリティなどというものに重きを置かなくなる。自分が現実に対処するために必要な人間ならば、そんな違いは無視できるのだ。そんなことをロン・ウッドルーフは教えてくれる。
それでも差別意識にがんじがらめになって現実に向き合えない人もいる。曇りきった目が現実を見えなくしてしまっているのだ。そういう人にどう対処すればいいのかははっきり言ってわからない。それでもどこかに、そんな曇を無化してくれる現実がそれぞれの人にあるはずだ。周囲に影響されてなんとなく出来上がった差別意識など、現実の人と向き合って感じたこととは比肩しようがないからだ。
そんな薄っすらとした希望も、この映画は見せてくれる。もちろんそれだけで万事が解決するわけではないが。
(C)2013 Dallas Buyers Club, LLC. All Right
『ダラス・バイヤーズクラブ』Dalls Buyers Club2013年/アメリカ/117分監督:ジャン=マルク・バレ脚本:クレイグ・ボーデン、メリッサ・ウォールラック撮影:イブ・ベランジェ音楽:カート&バート出演:マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナー
Kenji
Ishimuraishimura@cinema-today.netAdministratorライター/映画観察者。
2000年から「ヒビコレエイガ」主宰、ライターとしてgreenz.jpなどに執筆中。まとめサイト→https://note.mu/ishimurakenji
映画、アート、書籍などのレビュー記事、インタビュー記事、レポート記事が得意。ソーシネ
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