(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

コペンハーゲンのホテルの一室でインタビューを受けるアミンはアフガニスタン出身で、十代の頃、亡命を果たした。親友でもあるヨナス・ポヘール・ラスムセン監督の問いに答えながら、半生を語っていく。映画は、アミン本人や関係する人々の安全のためアニメーションで制作された。

1980年代、アフガニスタンの首都カブールで少年時代を過ごすアミンは、姉の洋服を着て走り回る変わった子どもだった。現在のアミンは、研究者としてキャリアを積み、パートナーの男性キャスパーと関係を築いていたが、彼にも言っていないことがあった。

アミンは、ラスムセン監督の問いに答え、幼少期のことから、デンマークにたどり着くまでの長い道のりのことを語り始める。

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難民が直面する厳しい現実

少年時代、アミンの父は共産主義政権に連れ去られ行方不明になり、アフガニスタンでは政府軍とムジャヒディンの内戦が始まった。アミン一家(母親と姉ふたりと兄)は国外へ逃げる決意をし、唯一観光ビザを発給していたソ連崩壊直後のロシアへ渡る。スウェーデンに住む長兄の援助を得て、アパートの一室で息をひそめながら密入国業者を探し、スウェーデンへの亡命を目指した。不法滞在の家族はほとんど出歩かずにテレビを見ながら1年を過ごし、ようやく姉2人の出国にこぎつけるが…

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亡命するまでのパートはとにかく苦しい。難民が直面する現実の厳しさはさまざまなところで語られているが、何度見聞きしても心が苦しい。それがここでも繰り返される。国とは何か、故郷とは何か、人権とは何か、考えることはたくさんあるが、どうして人はこんなにも利己的で残酷になれるのかと思い、胸が詰まってそれ以上考えられない。

亡命に成功した後のアミンは、ゲイであることに悩む。アフガニスタンではゲイであることは許されないことで、亡命したあとも薬で治せるものだと考えていた。でも、家族に受け入れてもらえて、アミンは自分の人生を歩み始めた。そして彼は最後に幸せをつかんだ。

世界を不幸にする不均衡

結局この映画は何なのか。アミンは幸運だったのか。もちろんこんな事は起きず、好きな場所で好きに生きられた方がいい。でも、アミンより悲惨な境遇の人々がアフガニスタンにはたくさんいる。アミンの半生は平和な国の恵まれた人達から見れば悲惨に見える部分もあるが、アフガニスタンや他の世界中の戦闘状態にある国々の人の多くから見れば恵まれていると言えるのかもしれない。

私達が考えなければならないのはこの不均衡であり、悲劇を生み出しているのは恵まれた平和な国であるということではないか。私たちも無関係ではない。だから無関心ではいてはいけない。

アフガニスタンのことについて見聞きするたびに思い出すのが、モフセン・マフマルバフの『アフガニスタンの仏像は壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』である。この本は先進国の人々の無関心がアフガニスタンの人々を死なせたという内容だ。

『アフガニスタンの仏像は壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』

この映画でも、アフガニスタンの内戦にソ連とアメリカが関わっていることが語られているが、先進国の対立がこのような悲劇を生むのであり、その構図は今も変わっていない。

だからこの映画は今のウクライナと無関係ではない。日本では、ウクライナから逃れてきた人たちの喜びの声がニュースで流されているが、彼らは恵まれたごく一部の人たちで、ウクライナには悲惨な境遇の人達が数多くいることを忘れてはいけない。

ただそれ以上は語るまい。この映画から導かれる問題はウクライナだけではない、見た人それぞれが今と自分自身と結びつけて考えればいい。

『FLEE フリー』
2021年/デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フランス/89分
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン
脚本:ヨナス・ポヘール・ラスムセン、アミン・ナワビ
アニメーション監督:ケネス・ラデケア
音楽:ウノ・ヘルマーソン

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(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved コペンハーゲンのホテルの一室でインタビューを受けるアミンはアフガニスタン出身で、十代の頃、亡命を果たした。親友でもあるヨナス・ポヘール・ラスムセン監督の問いに答えながら、半生を語っていく。映画は、アミン本人や関係する人々の安全のためアニメーションで制作された。 1980年代、アフガニスタンの首都カブールで少年時代を過ごすアミンは、姉の洋服を着て走り回る変わった子どもだった。現在のアミンは、研究者としてキャリアを積み、パートナーの男性キャスパーと関係を築いていたが、彼にも言っていないことがあった。 アミンは、ラスムセン監督の問いに答え、幼少期のことから、デンマークにたどり着くまでの長い道のりのことを語り始める。 (C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO...
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