© FairTrade Films

2002年に独立した東ティモールは1975年からインドネシアに併合されていた。このあたりの歴史については、『平和への道』に詳しいのでまずはぜひ見てほしいが、あわせてみたいのがこの映画『アブドゥルとジョゼ』だ。

このアブドゥルとジョゼが示すのは一人の男性、ジョゼという名前だった少年時代にインドネシア軍によって連れ去られ、アブドゥルという名前を与えられて、その後30年以上インドネシアで過ごしている。このアブドゥル/ジョゼが東ティモールの家族のもとに里帰りするという物語だ。

アブドゥルはインドネシアで妻と二人の娘と暮らしている。妻はインドネシア人で、一家はイスラム教徒だ。東ティモールはカトリックの国で、ジョゼはキリスト教徒だった。

ジョゼの両親はすでに亡くなり、故郷にいるのは兄弟と叔父。行方知れずになったジョゼは死んだこととされて葬式も行われ、埋葬もされたその墓には東ティモールの風習に従って石が埋められたという。そして後に亡くなった母親は、ジョゼの身代わりの石と一緒に埋葬してくれと頼み、家族はそのとおりにした。

そんな家族だから、アブドゥル一家を大歓迎する。そこになんのわだかまりもなく、宗教の違いが障害になるかもしれないというのは杞憂で、すぐに仲良くなり、短い滞在の終わり、アブドゥルの娘はいとことの別れに涙する。

インドネシアでの暮らしは決して楽ではなく、アブドゥル一家は東ティモールに帰りたいと望むようになる。それは当然だ。しかしそれはすぐではない。移り住むにはお金も必要だし、それにはもう何年か待たなければいけない。

何ということだろうか。独立から15年経っても、帰りたくても帰れない人がいる。そんなことがまかり通っていいのか。庶民は権力に振り回され、容易に平穏を得ることができない。そんな世界の現実に気が滅入るばかりだ。

こういう出来事を見聞きすると、わたしたちは世界市民として手を取り合って権力と渡り合っていくしかないのだという気持ちになる。国も国連もグローバル企業も、庶民のことなど見てはいない。わたしたちは世界規模で助け合い、生き残るしかない。そんな絶望的な希望にすがるしかないという思いが強くなる。

『アブドゥルとジョゼ』
Abdul & José
2017年/東ティモール=インドネシア/52分
監督:ルイジ・アキスト、ルルデス・ピレス

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© FairTrade Films 2002年に独立した東ティモールは1975年からインドネシアに併合されていた。このあたりの歴史については、『平和への道』に詳しいのでまずはぜひ見てほしいが、あわせてみたいのがこの映画『アブドゥルとジョゼ』だ。 https://socine.info/2021/06/28/timor-road-to-peace/ このアブドゥルとジョゼが示すのは一人の男性、ジョゼという名前だった少年時代にインドネシア軍によって連れ去られ、アブドゥルという名前を与えられて、その後30年以上インドネシアで過ごしている。このアブドゥル/ジョゼが東ティモールの家族のもとに里帰りするという物語だ。 アブドゥルはインドネシアで妻と二人の娘と暮らしている。妻はインドネシア人で、一家はイスラム教徒だ。東ティモールはカトリックの国で、ジョゼはキリスト教徒だった。 ジョゼの両親はすでに亡くなり、故郷にいるのは兄弟と叔父。行方知れずになったジョゼは死んだこととされて葬式も行われ、埋葬もされたその墓には東ティモールの風習に従って石が埋められたという。そして後に亡くなった母親は、ジョゼの身代わりの石と一緒に埋葬してくれと頼み、家族はそのとおりにした。 そんな家族だから、アブドゥル一家を大歓迎する。そこになんのわだかまりもなく、宗教の違いが障害になるかもしれないというのは杞憂で、すぐに仲良くなり、短い滞在の終わり、アブドゥルの娘はいとことの別れに涙する。 インドネシアでの暮らしは決して楽ではなく、アブドゥル一家は東ティモールに帰りたいと望むようになる。それは当然だ。しかしそれはすぐではない。移り住むにはお金も必要だし、それにはもう何年か待たなければいけない。 何ということだろうか。独立から15年経っても、帰りたくても帰れない人がいる。そんなことがまかり通っていいのか。庶民は権力に振り回され、容易に平穏を得ることができない。そんな世界の現実に気が滅入るばかりだ。 こういう出来事を見聞きすると、わたしたちは世界市民として手を取り合って権力と渡り合っていくしかないのだという気持ちになる。国も国連もグローバル企業も、庶民のことなど見てはいない。わたしたちは世界規模で助け合い、生き残るしかない。そんな絶望的な希望にすがるしかないという思いが強くなる。 『アブドゥルとジョゼ』Abdul & José2017年/東ティモール=インドネシア/52分監督:ルイジ・アキスト、ルルデス・ピレス
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