フランスのジャーナリスト、マリー=ドミニク・ロバンが遺伝子組み換え食物(GMO)の最大手企業モンサントについてインターネットと関係者へのインタビューで調査を行い、その真の姿を明らかにしようとする。

モンサントはもともと化学薬品を作っていた会社で、ベトナム戦争でアメリカが使った枯葉剤を作ったことでも有名、そのモンサントが世界有数のバイオ企業となり、世界を支配していく2008年時点のレポートである。

GMOに疑問を投げかける出発点

モンサントと食との関係についてはこれまでいくつも映画が作られてきました。この作品はその中で比較的早い2008年の映画。この時点ではGMOについて詳しいことはほとんどの人が知らなかったことでしょう。

その意味で、この映画は世界の人々に知る機会を与える貴重な作品になっていることは間違いありません。2020年の今観ても、この動きが1980年代から始まっていたことには驚きを隠せません。

さらに、この2008年の時点でGMOは世界へと拡大し、特に南米では大きな問題になっていること。アメリカ、ヨーロッパだけでなく、メキシコやパラグアイにも現地取材の赴いた取材力が生み出す説得力がこの作品にはあります。

ここで指摘されている問題のいくつかは、現在さらに大きな問題となっています。中でも問題視されているのが在来種の汚染、この映画では遺伝子組み換えトウモロコシが原産地であるメキシコの在来種の遺伝子にすでに入り込んでしまっている問題を取り上げていますが、この交雑の問題は、世界の生物多様性を奪ってしまう可能性があり、非常に大きな問題です。

そしてもう一つはモンサントによる農家の支配、自家採種ができないことで農家はモンサントに金銭的に支配され、奴隷のようになってしまっている事実です。この映画でも取り上げられているインドの事例は今でも大きな問題です。

遺伝子組み換えと食の問題はいまでもまだわからないことが多いだけに、その問題について考える出発点として、この作品を見るのがすごく意味があることは間違いありません。

映画の手法としては疑問が残る

ただこの映画には難点もあります。

モンサントの問題点を指摘することが重要なので、非常に戦闘的な映画になっているんですが、戦闘的「過ぎる」姿勢には疑問も感じます。この映画ではモンサント社の「主張」についてはほとんど触れません。この問題について判断するためには、モンサントの意見も聞いた上で彼女が言っていることが信用できるかどうかを判断したいのですがそれができないのです。

映画によればモンサント社は取材に応じなかったとのことですが、彼女はモンサント社側の人間へのインタビューの中で、彼が言い訳しようとするのを押しとどめ自分の「正論」を主張し続けます。たしかに彼女の言うことのほうが正しく、その返答は言い訳でしかないのでしょう。でも、その言い訳を言わせ、果たしてその言い訳に正当性があるのかを観客に判断させることこそが本当に「知る権利」を保障することになるのではないかと私は思うのです。

しかもインタビューを編集したのは彼女です。モンサントが自分たちに都合の割ることを隠したように、彼女には都合の悪い発言をカットすることができます。まあモンサント側の主張は調べればいくらでも出てくるのだから自分で調べればいいのかもしれませんが、一本の映画としてみると、どうしてももやもやが残るのです。

まあでも、それはそれ、一意見として受け止めて、また別の視点から検証した映画なりを見て自分で考えればいいのでしょう。わからないことが多い題材だけに、この映画で全てを語ることは不可能だということがわかった上で、未来の人たちに託したと受け取ることもできるのかもしれません。

その意味でも、この映画は遺伝子組み換えとモンサントについての映画の出発点と考えればいいのではないでしょうか。

『モンサントの不自然な食べもの』
2008年/フランス=カナダ=ドイツ/108分
監督:マリー=モニク・ロバン

https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/05/monsanto_main_s_large.jpg?fit=640%2C372&ssl=1https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/05/monsanto_main_s_large.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieVODGMO,食
フランスのジャーナリスト、マリー=ドミニク・ロバンが遺伝子組み換え食物(GMO)の最大手企業モンサントについてインターネットと関係者へのインタビューで調査を行い、その真の姿を明らかにしようとする。 モンサントはもともと化学薬品を作っていた会社で、ベトナム戦争でアメリカが使った枯葉剤を作ったことでも有名、そのモンサントが世界有数のバイオ企業となり、世界を支配していく2008年時点のレポートである。 GMOに疑問を投げかける出発点 モンサントと食との関係についてはこれまでいくつも映画が作られてきました。この作品はその中で比較的早い2008年の映画。この時点ではGMOについて詳しいことはほとんどの人が知らなかったことでしょう。 その意味で、この映画は世界の人々に知る機会を与える貴重な作品になっていることは間違いありません。2020年の今観ても、この動きが1980年代から始まっていたことには驚きを隠せません。 さらに、この2008年の時点でGMOは世界へと拡大し、特に南米では大きな問題になっていること。アメリカ、ヨーロッパだけでなく、メキシコやパラグアイにも現地取材の赴いた取材力が生み出す説得力がこの作品にはあります。 ここで指摘されている問題のいくつかは、現在さらに大きな問題となっています。中でも問題視されているのが在来種の汚染、この映画では遺伝子組み換えトウモロコシが原産地であるメキシコの在来種の遺伝子にすでに入り込んでしまっている問題を取り上げていますが、この交雑の問題は、世界の生物多様性を奪ってしまう可能性があり、非常に大きな問題です。 そしてもう一つはモンサントによる農家の支配、自家採種ができないことで農家はモンサントに金銭的に支配され、奴隷のようになってしまっている事実です。この映画でも取り上げられているインドの事例は今でも大きな問題です。 遺伝子組み換えと食の問題はいまでもまだわからないことが多いだけに、その問題について考える出発点として、この作品を見るのがすごく意味があることは間違いありません。 映画の手法としては疑問が残る ただこの映画には難点もあります。 モンサントの問題点を指摘することが重要なので、非常に戦闘的な映画になっているんですが、戦闘的「過ぎる」姿勢には疑問も感じます。この映画ではモンサント社の「主張」についてはほとんど触れません。この問題について判断するためには、モンサントの意見も聞いた上で彼女が言っていることが信用できるかどうかを判断したいのですがそれができないのです。 映画によればモンサント社は取材に応じなかったとのことですが、彼女はモンサント社側の人間へのインタビューの中で、彼が言い訳しようとするのを押しとどめ自分の「正論」を主張し続けます。たしかに彼女の言うことのほうが正しく、その返答は言い訳でしかないのでしょう。でも、その言い訳を言わせ、果たしてその言い訳に正当性があるのかを観客に判断させることこそが本当に「知る権利」を保障することになるのではないかと私は思うのです。 しかもインタビューを編集したのは彼女です。モンサントが自分たちに都合の割ることを隠したように、彼女には都合の悪い発言をカットすることができます。まあモンサント側の主張は調べればいくらでも出てくるのだから自分で調べればいいのかもしれませんが、一本の映画としてみると、どうしてももやもやが残るのです。 まあでも、それはそれ、一意見として受け止めて、また別の視点から検証した映画なりを見て自分で考えればいいのでしょう。わからないことが多い題材だけに、この映画で全てを語ることは不可能だということがわかった上で、未来の人たちに託したと受け取ることもできるのかもしれません。 その意味でも、この映画は遺伝子組み換えとモンサントについての映画の出発点と考えればいいのではないでしょうか。 https://youtu.be/PO7RmRVZs6A 『モンサントの不自然な食べもの』2008年/フランス=カナダ=ドイツ/108分監督:マリー=モニク・ロバン
Share this: