香港で今起こっている民主化運動である「雨傘運動」とは一体どのような運動なのか、どんな歴史的な背景があり、なぜ彼らはあんなにも必死なのか、香港のニュースをあまり注視してこなかった私にはよくわかりませんでした。

そんな時に出会ったのが、この『ジョシュア 大国に抗った少年』。

今も民主化運動の中心にいるジョシュア・ウォン(黄之鋒)さんが14歳で社会運動を始めてからの約4年間を追ったNetflixオリジナルドキュメンタリーです。

14歳の少年が始めた民主化運動

そもそも香港が中国に返還されたのは1997年、返還後も香港は言論や集会の自由が認められ、一国二制度が認められました。しかし、香港の行政のトップである行政長官は民主的な選挙ではなく中国本国政府によって任命されてきました。

ときは下って2011年、香港で中国の国民教育(愛国心を育てる教育)が実施されることが中国政府によって決定されます。それに疑問をいだいた当時14歳のジョシュアは仲間と学生団体「学民思潮」を立ち上げ、国民教育の撤回を求める運動を始めます。

この作品では、この頃からのジョシュアと仲間たちの姿の映像が使われています。そこにはいま「民主の女神」とも呼ばれる アグネス・チョウ(周庭)さん が初めて学民思潮に参加した頃の姿も捉えられています。

彼らは、2012年の国民教育試験実施の直前には政府庁舎前の広場を選挙するデモを実施、3万人以上の市民を集め、政府に圧力をかけたのです。

そこからジョシュアはより大きな民主化運動に学生を動員する中心になっていきます。その活動がどのような結果になったのかは調べればわかりますが、私も恥ずかしながらまったく知らず、映画を見ながらハラハラしたので、ここには結果は書かないでおきます。

ともかく、彼らは後に「雨傘運動」と呼ばれることになる普通選挙実施を求める「中環占拠」(香港経済の中心部となっている「中環」を市民が選挙し民主化を主張するデモ)に参加するのです。

この中環占拠が行われたのは2014年、映画は2015年頃で終わります。それから約4年後、現在も続く民主化でもが始まったのです。この映画を見ると、現在のデモが2012年にジョシュアが始めた運動からずっと続いているものだとわかります。そして彼らの主張は正当なものだし、彼らを応援することが世界の市民の努めだとも思わされるのです。

狡猾な権力が市民から奪うもの

とにかくいろいろな人にこの作品を見てほしいのですが、その理由の一つはこの映画を見ると、民主化運動の背景にある香港の政治状況について調べずにはいられなくなるからです。私も少し調べました。

詳しくは書きませんが、簡単に言うと中国政府は返還から50年は市民の自由を奪わないという約束とは裏腹に、少しずつ香港を締め付けてきているということです。デモの暴力による抑圧はその最たるものですし、国民教育の実施は内側から民主主義を崩壊させようというものです。現在のデモに批判的な人が香港に少なくないことを見ると、その中国の作戦はじわじわと効いてきていると言えるのではないでしょうか。

作品で強調されている、大国に個人が挑むことの無謀さ、それが明らかになってしまっているのです。中国はそれを香港にだけでなく、香港に目を向ける外国に対してもやろうとしています。デモの主導者を逮捕したり、参加者を「暴徒」と呼ぶんだりすることで世界に共感者を生むことを阻止しようとしているのです。

© 2016 Sundance Institute

それができるのは、彼らが世界の支配者だからです。単に大国だから力があるし国民をコントロールできるというのではなく、情報をコントロールし、自分たちに有利な世論を作っていく力を持っているのです。世論が自分たちの味方になったと見るや、暴力を使ってでも反対勢力を抑え込みます。

この映画を見ながら思い出したのは、 オキュパイ・ウォールストリート・ムーブメントを描いたドキュメンタリー映画『オキュパイ・ラブ』でした。 これも、市民が都市の中心部を占拠して自分たちの主張を世界に訴えようというものでした。彼らが訴えたのは富裕層の富の独占に拠る格差の是正でしたが。

ただ、考えてみれば、香港でもニューヨークでも人々が主張したのは既得権益によって生み出されている不公平の是正です。香港では中国共産党、NYではグローバル企業という強大な力が人々を搾取していることに市民は怒っていたのです。

この映画の原題のサブタイトルは「teenager vs. superpower」、superpowerは「超大国」という意味だと思いますが、文字通り強大な力と読めば、国に限らず強大な力を持つ組織と市民が対立している構図が見えてきます。

しかし、私たちの多くはそのことに無関心です。

この映画の終盤で、中国/香港政府は占拠を頬っておく作戦をとったと伝えるシーンがあります。占拠が他の市民にとって迷惑になり、賛同者が減っていくことを狙うのです。多くの人にとっては社会制度よりも日常生活のほうが大事です。そこをついて賛同者を減らしていこうとするのです。

私たちもそんな権力の作戦に乗せられて自分たちを縛ることになってしまっているかもしれない、この映画を見て最終的に考えたのはそのことでした。

市民がどうあるべきか考えることはなかなか難しいですが、権力が大衆のために何かをしてくれることなどはないことは確かです。市民は市民同士手を取り合って不公平と戦うしかありません。それを思い出させてくれるのがこの映画なのです。

『ジョシュア 大国に抗った少年』
2017年/アメリカ/79分
監督:ジョー・ピスカテラ
撮影:ジョナサン・ルル・ヤング
出演:ジョシュア・ウォン、アグネス・チョウ

https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2019/09/joshua_1.jpg?fit=1024%2C576&ssl=1https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2019/09/joshua_1.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraFeaturedMovieNetflix,ドキュメンタリー,民主化,香港
香港で今起こっている民主化運動である「雨傘運動」とは一体どのような運動なのか、どんな歴史的な背景があり、なぜ彼らはあんなにも必死なのか、香港のニュースをあまり注視してこなかった私にはよくわかりませんでした。 そんな時に出会ったのが、この『ジョシュア 大国に抗った少年』。 今も民主化運動の中心にいるジョシュア・ウォン(黄之鋒)さんが14歳で社会運動を始めてからの約4年間を追ったNetflixオリジナルドキュメンタリーです。 https://youtu.be/7lN9_mQq2mQ 14歳の少年が始めた民主化運動 そもそも香港が中国に返還されたのは1997年、返還後も香港は言論や集会の自由が認められ、一国二制度が認められました。しかし、香港の行政のトップである行政長官は民主的な選挙ではなく中国本国政府によって任命されてきました。 ときは下って2011年、香港で中国の国民教育(愛国心を育てる教育)が実施されることが中国政府によって決定されます。それに疑問をいだいた当時14歳のジョシュアは仲間と学生団体「学民思潮」を立ち上げ、国民教育の撤回を求める運動を始めます。 この作品では、この頃からのジョシュアと仲間たちの姿の映像が使われています。そこにはいま「民主の女神」とも呼ばれる アグネス・チョウ(周庭)さん が初めて学民思潮に参加した頃の姿も捉えられています。 彼らは、2012年の国民教育試験実施の直前には政府庁舎前の広場を選挙するデモを実施、3万人以上の市民を集め、政府に圧力をかけたのです。 そこからジョシュアはより大きな民主化運動に学生を動員する中心になっていきます。その活動がどのような結果になったのかは調べればわかりますが、私も恥ずかしながらまったく知らず、映画を見ながらハラハラしたので、ここには結果は書かないでおきます。 ともかく、彼らは後に「雨傘運動」と呼ばれることになる普通選挙実施を求める「中環占拠」(香港経済の中心部となっている「中環」を市民が選挙し民主化を主張するデモ)に参加するのです。 この中環占拠が行われたのは2014年、映画は2015年頃で終わります。それから約4年後、現在も続く民主化でもが始まったのです。この映画を見ると、現在のデモが2012年にジョシュアが始めた運動からずっと続いているものだとわかります。そして彼らの主張は正当なものだし、彼らを応援することが世界の市民の努めだとも思わされるのです。 (adsbygoogle = window.adsbygoogle || ).push({});
Share this: