(C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社

東日本大震災から14年、福島第一原発事故の被災地の復興はまだまだ進んでいません。毎年この時期にはそのことを思い、なにか映画を見ます。今年は、『とんがり頭のごん太 2つの名前を生きた福島被災犬の物語』を見ました。

この映画は、仲本剛さんのノンフィクション小説『福島 余命1カ月の被災犬 とんがりあたまのごん太』を原案にしたアニメ映画で、原発事故で避難を余儀なくされた被災者が置いていかざるを得なかったペットたちを描いた作品です。

被災したペットたちとその家族

主人公の吉野由紀は東京の大学に通う学生で、東日本大震災に直面し、なにかできることはないかとペットボランティアに応募し、ペットの保護施設がある石巻へと向かう。子供の頃、愛犬の存在に助けられたことがある吉野は、10日のつもりで参加したボランティアにやりがいを感じ、活動を延長してペットの世話をするようになる。

一方、浪江町で焼きそば屋を営む富田清は、代々飼い犬を「ごん太」と名付けかわいがっていた。障害のある孫もごん太に懐き、家族で幸せに暮らしていたが、そこに東日本大震災が襲う。地震や津波の被害はなかった富田家だが、原発事故が起こり、避難指示が出ると、避難所にごん太を連れて行くわけにはいかず、たくさんの餌を残して置いていくしかなかった。

(C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社

吉野が参加したボランティア団体には、原発被災地で多くのペットが放置されているという情報が入り、犬を救い出すために避難勧告の出ている地域へと向かう。そこで、ごん太率いる野犬のグループに出会った吉野たちは数頭の犬を保護、石巻につれて帰り、ごん太を「ピース」と名付けて世話をするようになる。

時が経ち、相模原の施設へと犬たちを移すことになった吉野たち。ピースの様子がおかしいので医者に見せると、がんで余命1ヶ月だと言われ、飼い主を探そうと懸命になる。

お涙頂戴映画だけど

この映画はいわゆる「ハンカチもの」で、ペットと家族の絆、それを支えるボランティアの人柄を描いて感動を誘う作品だ。震災前のごん太と家族の繋がり、震災後のピースと吉野のつながりを丁寧に描くことで、ごん太/ピースを中心に人々が支え合う姿が感動を誘う。事実に基づいているとはいえ、出来すぎた話にも見えるし、あくまでフィクションなので、それでいいのだろう。家族もの、動物もので感動したい人にはうってつけの作品だ。

(C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社

一方で、長編アニメ映画としてみると、物足りなさは否めない。アニメ映画が高度化し、深い人物描写やメッセージ、挑戦的な映像を駆使した作品が多くある中で、シンプルなストーリーで、映像的にも非常にスタンダードなので、まあそうだろうねという感じで見終わってしまう人も多いかも知れない。

まあ、でもそれでいいのだろう、映画にはそれぞれ役割があって、この映画は子どもを含めたファミリーに向けた見やすい作品であり、アニメファンや映画ファンに向けた作品ではない。

それでも、子供向けかというとそうではない魅力もあって、それはやはりその題材だ。

原発事故を描くということ

この映画の「3.11映画」としての良さは、非常に素直に当時のことを描いている点だ。被災者の中には原発ではなたらいていた人がいて、でもそういう人たちも何が起こっているかわからず、見えない放射能の恐怖に襲われる。働いていなかった人の恐怖はなおさらだろう。そして目に見えた被害がないにも関わらず、ペットまで置いて家を離れなければならない被災者たちのやるせなさもしっかりと描かれている。

(C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社

そして、それが「やるせなさ」として描かれているところが大きいと思う。この映画が公開されたのは2022年だが、事故から10年以上も経って映画を作る場合、どうしても現在の視点から検証したくなってしまう。このような自体に陥った原因を突き止め、東京電力を批判するなりなんなりしたくなるものだ。しかしこの映画は、当時の空気感をそのまま閉じ込めて映像化している。

実は、それが10年以上経って見る我々にも意味がある。当時の空気感をそのまま閉じ込めたことで、見る側も当時のことを思い出し、その時の感情が蘇ってくる。あんな事があったな、当時はこう感じてたなと思い出すことで、今何をするべきか考え直したり、今度災害にあってしまったらどうするべきか考えたりすることができるのだ。

『とんがり頭のごん太 2つの名前を生きた福島被災犬の物語』
2022年/日本/114分
監督・脚本:西澤昭男
原案:中本剛
総作画監督:上野翔太
撮影監督:林美幸
音楽:クリヤマコト
声の出演:石川由依、斉藤暁、神尾佑、伊藤健太郎

https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2025/03/gonta_5.jpg?fit=640%2C360&ssl=1https://i1.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2025/03/gonta_5.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieアニメ,ボランティア,原発事故,東日本大震災
(C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社 東日本大震災から14年、福島第一原発事故の被災地の復興はまだまだ進んでいません。毎年この時期にはそのことを思い、なにか映画を見ます。今年は、『とんがり頭のごん太 2つの名前を生きた福島被災犬の物語』を見ました。 この映画は、仲本剛さんのノンフィクション小説『福島 余命1カ月の被災犬 とんがりあたまのごん太』を原案にしたアニメ映画で、原発事故で避難を余儀なくされた被災者が置いていかざるを得なかったペットたちを描いた作品です。 被災したペットたちとその家族 主人公の吉野由紀は東京の大学に通う学生で、東日本大震災に直面し、なにかできることはないかとペットボランティアに応募し、ペットの保護施設がある石巻へと向かう。子供の頃、愛犬の存在に助けられたことがある吉野は、10日のつもりで参加したボランティアにやりがいを感じ、活動を延長してペットの世話をするようになる。 一方、浪江町で焼きそば屋を営む富田清は、代々飼い犬を「ごん太」と名付けかわいがっていた。障害のある孫もごん太に懐き、家族で幸せに暮らしていたが、そこに東日本大震災が襲う。地震や津波の被害はなかった富田家だが、原発事故が起こり、避難指示が出ると、避難所にごん太を連れて行くわけにはいかず、たくさんの餌を残して置いていくしかなかった。 (C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社 吉野が参加したボランティア団体には、原発被災地で多くのペットが放置されているという情報が入り、犬を救い出すために避難勧告の出ている地域へと向かう。そこで、ごん太率いる野犬のグループに出会った吉野たちは数頭の犬を保護、石巻につれて帰り、ごん太を「ピース」と名付けて世話をするようになる。 時が経ち、相模原の施設へと犬たちを移すことになった吉野たち。ピースの様子がおかしいので医者に見せると、がんで余命1ヶ月だと言われ、飼い主を探そうと懸命になる。 お涙頂戴映画だけど この映画はいわゆる「ハンカチもの」で、ペットと家族の絆、それを支えるボランティアの人柄を描いて感動を誘う作品だ。震災前のごん太と家族の繋がり、震災後のピースと吉野のつながりを丁寧に描くことで、ごん太/ピースを中心に人々が支え合う姿が感動を誘う。事実に基づいているとはいえ、出来すぎた話にも見えるし、あくまでフィクションなので、それでいいのだろう。家族もの、動物もので感動したい人にはうってつけの作品だ。 (C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社 一方で、長編アニメ映画としてみると、物足りなさは否めない。アニメ映画が高度化し、深い人物描写やメッセージ、挑戦的な映像を駆使した作品が多くある中で、シンプルなストーリーで、映像的にも非常にスタンダードなので、まあそうだろうねという感じで見終わってしまう人も多いかも知れない。 まあ、でもそれでいいのだろう、映画にはそれぞれ役割があって、この映画は子どもを含めたファミリーに向けた見やすい作品であり、アニメファンや映画ファンに向けた作品ではない。 それでも、子供向けかというとそうではない魅力もあって、それはやはりその題材だ。 原発事故を描くということ この映画の「3.11映画」としての良さは、非常に素直に当時のことを描いている点だ。被災者の中には原発ではなたらいていた人がいて、でもそういう人たちも何が起こっているかわからず、見えない放射能の恐怖に襲われる。働いていなかった人の恐怖はなおさらだろう。そして目に見えた被害がないにも関わらず、ペットまで置いて家を離れなければならない被災者たちのやるせなさもしっかりと描かれている。 (C)2022 ワオ・コーポレーション/光文社 そして、それが「やるせなさ」として描かれているところが大きいと思う。この映画が公開されたのは2022年だが、事故から10年以上も経って映画を作る場合、どうしても現在の視点から検証したくなってしまう。このような自体に陥った原因を突き止め、東京電力を批判するなりなんなりしたくなるものだ。しかしこの映画は、当時の空気感をそのまま閉じ込めて映像化している。 実は、それが10年以上経って見る我々にも意味がある。当時の空気感をそのまま閉じ込めたことで、見る側も当時のことを思い出し、その時の感情が蘇ってくる。あんな事があったな、当時はこう感じてたなと思い出すことで、今何をするべきか考え直したり、今度災害にあってしまったらどうするべきか考えたりすることができるのだ。 『とんがり頭のごん太 2つの名前を生きた福島被災犬の物語』2022年/日本/114分監督・脚本:西澤昭男原案:中本剛総作画監督:上野翔太撮影監督:林美幸音楽:クリヤマコト声の出演:石川由依、斉藤暁、神尾佑、伊藤健太郎
Share this: