引きこもりの二十歳の青年・悟は、母親と二人暮らし。母が作ってくれる食事も取らず、ジャンクフードを食べながらゲームをする日々を送ってる。そんな悟に仕事をさせようと、母親が知人・藤澤に頼みワイナリーの仕事に連れ出してもらう。渋々ついていった悟は一応仕事はこなし、無言で帰ってくる日々を送るようになる。
休日の野球の誘いにも一応のるが、遠くから眺めただけで参加はせず、途中で帰ってしまう。そしてある日、悟の募る不満が爆発する。
注目の若手映画監督・竹馬靖具が2009年に発表した監督デビュー作。監督・脚本・主演を務めた。
悟はなぜ引きこもるのか
悟は母親ともまともに会話せず、コンビニでたまたまあった中学の同級生にも生返事をするだけなくらいだから、いきなり働きに出てそこでうまくやっていけるわけはない。藤澤は一生懸命世話を焼き、なんとか仕事がスムーズに行くように心を砕くが、悟にはそんな気はない。
それならなぜ仕事に行き、休日に野球にまで行くのか不可解だが、ただ断れないだけなのかも知れないし、もしかしたら引きこもりから脱したいという気持ちがあるのかも知れない。
しかし、引きこもっているのには原因があるはずで、その原因を解消することなくただ外に行ったところで悟のなにかが変わるわけはない。だからうまくいくはずがないことはすぐに分かる。
結局これでは何も解決しないのだ。
では悟が引きこもる原因とは何なのか。この映画ではそれは明らかにならない。母親に対する何らかの思いはありそうだが、とくほぐされては行かない。そこに謎が残ってしまうと、悟の気持ちはわかってもなかなか共感しづらくて、今ひとつ物語に入っていけない感じはある。なかなか自分にひきつけて考えられないのだ。
そこで、この映画は何を描こうとしているのかを考えてみたい。
引きこもりの何が問題か
この映画は何を描きたかったのか。ひとつ思ったのは「引きこもり問題」が問題である理由は引きこもる側にあるのではなく社会にあるのだということだ。
悟の行動を見ると、悟は社会に出たくないのではなくて、社会のほうが受け入れてくれないと感じているのではないかと思う。社会には自分の居場所がないと思っているのではないかと。
それに対して「居場所は自分で探すものだ」とか「受け入れるための努力をしてないじゃないか」と言いたくもなるが、本当にそうだろうか?そういう人たちはなんの苦労もなく、社会に受け入れられ、居場所を見つけられた人たちなのではないか。
そういう人たちが作った社会にいづらさや息苦しさを感じる人達が引きこもりとなる。そうすると彼らに原因があると批判される。それでますます引きこもる。
そうならば、本当は社会の側が彼らに居場所を用意してあげるべきではないか。だってそのほうがひとりひとりの可能性を社会に活かせるのだから。今の社会に適応できないから切り捨てるということをするだけでは社会は一向に良くならない。
現在の社会規範からこぼれ落ちる人たちを受け止める受け皿がある社会、それが多様性を尊重する社会であり、そのような社会であれば引きこもりはこんなに増えないはずだ。
悟の問題の解決策は、無理やり外に引っ張り出して社会とのつながりを作ろうとするのではなくて、引きこもりながらでも社会と繋がり、社会の役に立てることが実感できるようにすることではなかったのか。
彼は自分のダメさ、不甲斐なさを十分実感している、その彼をさらに追い込んだところで何も生まれない。むしろ彼の長所が生きる場所を探してあげることこそが解決方法なのではないか。
藤澤は悟のために手を尽くし、よくやってくれている。でもやっていることが的外れでまったく悟のためになっていない。だから悟は藤澤から逃げる。追いかけて捕まえてもまた逃げる。藤澤がやるべきだったのは引っ張り出すことではなく、悟が来たくなるような場所を用意することだったのではないか。
そんな事を考えながら『ヤクザと憲法』のことを思った。引きこもりも、ヤクザも、乱暴な言い方をするなら障害者も、今の社会規範からこぼれ落ちるという意味では同じ立場で、彼らをどう救うかはこれからの社会が取り組まなければならない課題なのだ。
『今、僕は』
2007年/日本/87分
監督・脚本・出演:竹馬靖具
撮影:宗田英立大
出演:藤沢よしはる、弁、志賀正人
https://socine.info/2020/05/21/ima-bokuha/https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/05/bokuha_main_large.jpg?fit=500%2C307&ssl=1https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2020/05/bokuha_main_large.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraMovieVOD引きこもり(C)Chiyuw All Rights Reserved.
引きこもりの二十歳の青年・悟は、母親と二人暮らし。母が作ってくれる食事も取らず、ジャンクフードを食べながらゲームをする日々を送ってる。そんな悟に仕事をさせようと、母親が知人・藤澤に頼みワイナリーの仕事に連れ出してもらう。渋々ついていった悟は一応仕事はこなし、無言で帰ってくる日々を送るようになる。
休日の野球の誘いにも一応のるが、遠くから眺めただけで参加はせず、途中で帰ってしまう。そしてある日、悟の募る不満が爆発する。
注目の若手映画監督・竹馬靖具が2009年に発表した監督デビュー作。監督・脚本・主演を務めた。
悟はなぜ引きこもるのか
悟は母親ともまともに会話せず、コンビニでたまたまあった中学の同級生にも生返事をするだけなくらいだから、いきなり働きに出てそこでうまくやっていけるわけはない。藤澤は一生懸命世話を焼き、なんとか仕事がスムーズに行くように心を砕くが、悟にはそんな気はない。
それならなぜ仕事に行き、休日に野球にまで行くのか不可解だが、ただ断れないだけなのかも知れないし、もしかしたら引きこもりから脱したいという気持ちがあるのかも知れない。
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しかし、引きこもっているのには原因があるはずで、その原因を解消することなくただ外に行ったところで悟のなにかが変わるわけはない。だからうまくいくはずがないことはすぐに分かる。
結局これでは何も解決しないのだ。
では悟が引きこもる原因とは何なのか。この映画ではそれは明らかにならない。母親に対する何らかの思いはありそうだが、とくほぐされては行かない。そこに謎が残ってしまうと、悟の気持ちはわかってもなかなか共感しづらくて、今ひとつ物語に入っていけない感じはある。なかなか自分にひきつけて考えられないのだ。
そこで、この映画は何を描こうとしているのかを考えてみたい。
引きこもりの何が問題か
この映画は何を描きたかったのか。ひとつ思ったのは「引きこもり問題」が問題である理由は引きこもる側にあるのではなく社会にあるのだということだ。
悟の行動を見ると、悟は社会に出たくないのではなくて、社会のほうが受け入れてくれないと感じているのではないかと思う。社会には自分の居場所がないと思っているのではないかと。
それに対して「居場所は自分で探すものだ」とか「受け入れるための努力をしてないじゃないか」と言いたくもなるが、本当にそうだろうか?そういう人たちはなんの苦労もなく、社会に受け入れられ、居場所を見つけられた人たちなのではないか。
(C)Chiyuw All Rights Reserved.
そういう人たちが作った社会にいづらさや息苦しさを感じる人達が引きこもりとなる。そうすると彼らに原因があると批判される。それでますます引きこもる。
そうならば、本当は社会の側が彼らに居場所を用意してあげるべきではないか。だってそのほうがひとりひとりの可能性を社会に活かせるのだから。今の社会に適応できないから切り捨てるということをするだけでは社会は一向に良くならない。
現在の社会規範からこぼれ落ちる人たちを受け止める受け皿がある社会、それが多様性を尊重する社会であり、そのような社会であれば引きこもりはこんなに増えないはずだ。
悟の問題の解決策は、無理やり外に引っ張り出して社会とのつながりを作ろうとするのではなくて、引きこもりながらでも社会と繋がり、社会の役に立てることが実感できるようにすることではなかったのか。
彼は自分のダメさ、不甲斐なさを十分実感している、その彼をさらに追い込んだところで何も生まれない。むしろ彼の長所が生きる場所を探してあげることこそが解決方法なのではないか。
藤澤は悟のために手を尽くし、よくやってくれている。でもやっていることが的外れでまったく悟のためになっていない。だから悟は藤澤から逃げる。追いかけて捕まえてもまた逃げる。藤澤がやるべきだったのは引っ張り出すことではなく、悟が来たくなるような場所を用意することだったのではないか。
そんな事を考えながら『ヤクザと憲法』のことを思った。引きこもりも、ヤクザも、乱暴な言い方をするなら障害者も、今の社会規範からこぼれ落ちるという意味では同じ立場で、彼らをどう救うかはこれからの社会が取り組まなければならない課題なのだ。
https://youtu.be/Kzf0sw_b0XA
『今、僕は』2007年/日本/87分監督・脚本・出演:竹馬靖具撮影:宗田英立大出演:藤沢よしはる、弁、志賀正人
Kenji
Ishimuraishimura@cinema-today.netAdministratorライター/映画観察者。
2000年から「ヒビコレエイガ」主宰、ライターとしてgreenz.jpなどに執筆中。まとめサイト→https://note.mu/ishimurakenji
映画、アート、書籍などのレビュー記事、インタビュー記事、レポート記事が得意。ソーシネ
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