trump
photo by Gage Skidmore

ドナルド・トランプ がアメリカ大統領になることが決まった。選挙キャンペーン中の過激な発言を巡って世界中で不安や混乱が起きている。一体どうなることやらわからないなか、色々なニュースやコラムを読んで、一番腑に落ちたのがこの記事だった。

かなり長く読みごたえのある記事で、内容をかいつまむのは難しいが、個人的に一番興味深かったのは、ピーター・ティールが政権移行チームに入るという部分で、それが意味するのは、現在のグローバルスタンダードが終わりを告げようとしているという点だ。ピーター・ティールはイーロン・マスクと共にPayPalを起こしたシリコンバレーの起業家でベンチャーキャピタリストだ。そしてリベリタリアンでもある。これを聞いて、前々から読みたかった彼の著書『ゼロ・トゥ・ワン』をやっぱり読もうと思ったのだが、それはさておき。

ピーター・ティールの発言とトランプの発言を合わせてみると、トランプ時代のアメリカが目指すのは、グローバル企業の金融資本主義の「次」として、アメリカ国内で「新しい産業」を興すことだろうということだ。その内容はどのようなものになるかわからないし、わからないからこそピーター・ティールが必要なのだろうけれど、今のグローバル企業が世界の市場を寡占する仕組みとは全く異なる産業構造を構築しようとしているのではないかとかんがえられる。

トランプの数々の暴言や問題発言はまあ彼の本心だろうが、それはある意味では彼のプライベートな心情の部分だ。それに対して、アメリカに新しい産業構造を築くというのは、彼の得意な金儲けの部分であり、ビジネスの分野の問題だ。彼自身、公私を上手に使い分けられない人間のようにみえるので、私の部分の発言が問題になっているけれど、公の部分ではしっかりやるのではないか。公の部分さえちゃんとやってれば大統領として問題ないのかと言われるとそうではないだろうが、まあアメリカ人ではない私たちに影響が大きいのは公の部分なので、その部分の方に注目した方がいいということは言えるのではないか。

さて、トランプの資質については置いておいて、新しい産業構造がどのようなものになるかわからないという不安はあるものの、現在のグローバル経済構造を壊す必要があるということが、私が一番言いたかったことだ。その点で、トランプに期待する部分はある。グローバリズムの問題というのはここ数年あるいは十数年考えてきたことで、その問題点について考えさせられる映画もいくつもある。例えば『ダーウィンの悪夢』はグローバル経済が引き起こす経済問題と生態系の問題について描いている。労働環境の問題を描いた秀作には『トゥルー・コスト』もあるし、食と経済の問題を描いた『ありあまるごちそう』などもある。

そんな映画を観たりいろいろな人の話を聞く中で、グローバル経済が現在のさまざまの問題の原因になっているということはなんとなくわかっていた。が、決定的たったのは、先日『幸せの経済学』の監督も務めたヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんにインタビューしたことだ。乱暴にまとめると、彼女が言うには、本来は戦争のない平和な社会を作るために構築されてきたグローバル経済が、今では消費文化によって格差を拡大し、私たちを不幸にしてしまっているということだ。そして、それをひっくり返すカギはローカリゼーションにあるという。大筋は映画を観てもわかるのでぜひ観てほしい。

300円で観られるのでぜひ↓

世界は今、グローバル企業という事実上の世界政府にコントロールされていて、それを各国の政府や貿易協定が支えている。今まで私たちはよりよい生活とはもっといいものを消費することだと信じ込まされてきたが、そこによりよい生活などないし、そのような消費構造はタックスヘイブンを活用し市場を支配するグローバル企業を肥え太らせるだけだということに気づきつつある。だからそこから抜け出そうと、もがいている人たちがどんどん増えている。

ヘレナさんは、その方法としてわざわざ遠くで作られたものではなくて、近くで作られたものを買うという方法をまず提唱している。それによって距離的に近いところでコミュニティが出来てゆき、よりよい生活を手にできるのだと。例えば農業の話で言えば、そうすればグローバル企業から遺伝子組換えの種子や農薬を買わなくても良くなるという。

ピーター・ティールはおそらくまた別の方法を考えているが、トランプはローカルの範囲をアメリカという国で区切ってやろうとしているのかもしれない。それがどのようなものなのかはやはりわからない。

しかし、グローバルから脱却するということは、行き着く先はその対義語であるローカルであることは明らかだ。ただ、このローカルというのが必ずしも物理的な距離を意味しているのではないのではないかというのが今考えていることだ。食べ物のように物理的に手にする必要があるものの場合、ローカルということを考えると距離的に近いところで作られたものを手に入れると考えるしかない。エネルギーもその傾向が強い。しかし、情報について考えるとローカルというのは必ずしも物理的な距離の問題ではないと思えてくる。”Think Globally, Act Locally”という言葉があるが、いまはもっと進んで”Connect Globally, Live Locally”(グローバルにつながってローカルに暮らす)とでもいう生き方が求められているのかもしれない。

そのうえで、トランプ時代(と勝手に名付けてしまったが)に何が出来るのかと考えてみると、結局「自分にできることをする」しかない。とは言えただやりたいことをやるのではなく、自分が生きやすい世界を作るために出来ることをして、それによって世界のなるべく多くの人が生きやすくなるようにする。自分が世界のために出来ることをして、それを広めていく、それしかないのだろう。

トランプについては、マイケル・ムーアが色々言っているが、彼のやっていることはある意味ではそういうことであり、彼以降、同じように「自分ができること」にチャレンジして、そこから様々な教訓を得たり、見る人に考えさせたりする映画が作られてもいる。初期では『スーパーサイズ・ミー』なんかがその典型だ。

そんな作品の中で、一本ぜひ観てほしい作品を上げるとしたら、『365日のシンプルライフ』だ(レビュー記事はこちら)。主人公が全ての持ち物を貸倉庫に預け、1日1つだけそこから物を持ち出すことで本当に必要な「もの」を見つけていくという話だが、本当にシンプルに今の世界というものを考えさせてくれる作品だ。(改めてこの作品とミニマリストについて考えてみた記事がこちら

こちらも300円でレンタル可↓

今のデジタル社会において、ローカルとは何なのか、ものとは何なのか、消費とは何なのか、トランプの衝撃は突き詰めるとそのような問いに行き着くのではないだろうか。

https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2016/11/trump.jpg?fit=640%2C427&ssl=1https://i2.wp.com/socine.info/wp-content/uploads/2016/11/trump.jpg?resize=150%2C150&ssl=1ishimuraStoryglobalization,localization,minimalist
photo by Gage Skidmore ドナルド・トランプ がアメリカ大統領になることが決まった。選挙キャンペーン中の過激な発言を巡って世界中で不安や混乱が起きている。一体どうなることやらわからないなか、色々なニュースやコラムを読んで、一番腑に落ちたのがこの記事だった。 かなり長く読みごたえのある記事で、内容をかいつまむのは難しいが、個人的に一番興味深かったのは、ピーター・ティールが政権移行チームに入るという部分で、それが意味するのは、現在のグローバルスタンダードが終わりを告げようとしているという点だ。ピーター・ティールはイーロン・マスクと共にPayPalを起こしたシリコンバレーの起業家でベンチャーキャピタリストだ。そしてリベリタリアンでもある。これを聞いて、前々から読みたかった彼の著書『ゼロ・トゥ・ワン』をやっぱり読もうと思ったのだが、それはさておき。 ピーター・ティールの発言とトランプの発言を合わせてみると、トランプ時代のアメリカが目指すのは、グローバル企業の金融資本主義の「次」として、アメリカ国内で「新しい産業」を興すことだろうということだ。その内容はどのようなものになるかわからないし、わからないからこそピーター・ティールが必要なのだろうけれど、今のグローバル企業が世界の市場を寡占する仕組みとは全く異なる産業構造を構築しようとしているのではないかとかんがえられる。 トランプの数々の暴言や問題発言はまあ彼の本心だろうが、それはある意味では彼のプライベートな心情の部分だ。それに対して、アメリカに新しい産業構造を築くというのは、彼の得意な金儲けの部分であり、ビジネスの分野の問題だ。彼自身、公私を上手に使い分けられない人間のようにみえるので、私の部分の発言が問題になっているけれど、公の部分ではしっかりやるのではないか。公の部分さえちゃんとやってれば大統領として問題ないのかと言われるとそうではないだろうが、まあアメリカ人ではない私たちに影響が大きいのは公の部分なので、その部分の方に注目した方がいいということは言えるのではないか。 さて、トランプの資質については置いておいて、新しい産業構造がどのようなものになるかわからないという不安はあるものの、現在のグローバル経済構造を壊す必要があるということが、私が一番言いたかったことだ。その点で、トランプに期待する部分はある。グローバリズムの問題というのはここ数年あるいは十数年考えてきたことで、その問題点について考えさせられる映画もいくつもある。例えば『ダーウィンの悪夢』はグローバル経済が引き起こす経済問題と生態系の問題について描いている。労働環境の問題を描いた秀作には『トゥルー・コスト』もあるし、食と経済の問題を描いた『ありあまるごちそう』などもある。 そんな映画を観たりいろいろな人の話を聞く中で、グローバル経済が現在のさまざまの問題の原因になっているということはなんとなくわかっていた。が、決定的たったのは、先日『幸せの経済学』の監督も務めたヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんにインタビューしたことだ。乱暴にまとめると、彼女が言うには、本来は戦争のない平和な社会を作るために構築されてきたグローバル経済が、今では消費文化によって格差を拡大し、私たちを不幸にしてしまっているということだ。そして、それをひっくり返すカギはローカリゼーションにあるという。大筋は映画を観てもわかるのでぜひ観てほしい。 300円で観られるのでぜひ↓ 世界は今、グローバル企業という事実上の世界政府にコントロールされていて、それを各国の政府や貿易協定が支えている。今まで私たちはよりよい生活とはもっといいものを消費することだと信じ込まされてきたが、そこによりよい生活などないし、そのような消費構造はタックスヘイブンを活用し市場を支配するグローバル企業を肥え太らせるだけだということに気づきつつある。だからそこから抜け出そうと、もがいている人たちがどんどん増えている。 ヘレナさんは、その方法としてわざわざ遠くで作られたものではなくて、近くで作られたものを買うという方法をまず提唱している。それによって距離的に近いところでコミュニティが出来てゆき、よりよい生活を手にできるのだと。例えば農業の話で言えば、そうすればグローバル企業から遺伝子組換えの種子や農薬を買わなくても良くなるという。 ピーター・ティールはおそらくまた別の方法を考えているが、トランプはローカルの範囲をアメリカという国で区切ってやろうとしているのかもしれない。それがどのようなものなのかはやはりわからない。 しかし、グローバルから脱却するということは、行き着く先はその対義語であるローカルであることは明らかだ。ただ、このローカルというのが必ずしも物理的な距離を意味しているのではないのではないかというのが今考えていることだ。食べ物のように物理的に手にする必要があるものの場合、ローカルということを考えると距離的に近いところで作られたものを手に入れると考えるしかない。エネルギーもその傾向が強い。しかし、情報について考えるとローカルというのは必ずしも物理的な距離の問題ではないと思えてくる。'Think Globally, Act Locally'という言葉があるが、いまはもっと進んで'Connect Globally, Live Locally'(グローバルにつながってローカルに暮らす)とでもいう生き方が求められているのかもしれない。 そのうえで、トランプ時代(と勝手に名付けてしまったが)に何が出来るのかと考えてみると、結局「自分にできることをする」しかない。とは言えただやりたいことをやるのではなく、自分が生きやすい世界を作るために出来ることをして、それによって世界のなるべく多くの人が生きやすくなるようにする。自分が世界のために出来ることをして、それを広めていく、それしかないのだろう。 トランプについては、マイケル・ムーアが色々言っているが、彼のやっていることはある意味ではそういうことであり、彼以降、同じように「自分ができること」にチャレンジして、そこから様々な教訓を得たり、見る人に考えさせたりする映画が作られてもいる。初期では『スーパーサイズ・ミー』なんかがその典型だ。 そんな作品の中で、一本ぜひ観てほしい作品を上げるとしたら、『365日のシンプルライフ』だ(レビュー記事はこちら)。主人公が全ての持ち物を貸倉庫に預け、1日1つだけそこから物を持ち出すことで本当に必要な「もの」を見つけていくという話だが、本当にシンプルに今の世界というものを考えさせてくれる作品だ。(改めてこの作品とミニマリストについて考えてみた記事がこちら) こちらも300円でレンタル可↓ 今のデジタル社会において、ローカルとは何なのか、ものとは何なのか、消費とは何なのか、トランプの衝撃は突き詰めるとそのような問いに行き着くのではないだろうか。
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